『さかさ星 貴志祐介』呪いと恐怖の先にあるホラー、というのでなく…
発売前から、貴志祐介先生の新作ホラーという事で楽しみにしていました。
更に、私の好きな鬼瓦が表紙全面に、これは期待しかありません。
結局一気に読み終えて、一日で読めそうだったけど、もったいないので二日に分けて読みましたが、ほぼ一気読みで勢いがついて読み進める面白さでした。
が、ホラー、呪物が出てきて、昔からの則と超常現象、そして呪いの正体とはとたたみかけるように物語が進んで行ったのだけど、何故か恐怖感が小説の面白さと比例しない。
旧家に収集された名品の数々が実は恐るべき呪物で、その呪物の過去からの因縁も恐怖に包まれてはいるのだけど、恐怖にふるえることが出来ない。
これは、おそらく最初の一家惨殺事件が呪物の謎に絡めることによって、惨劇が直接的に語られないこと。
そして、霊能者が次々に暴く呪物の正体の物語が、判明するのが早すぎるからではないだろうか。
確かに呪物の来歴は恐るべきもので、その呪いの正体が現代に現実に侵食してくる恐怖はあるのだけど、その呪いが間違いなくこちらには向いてこないという安心感が恐怖をうすれさせているのではないだろうか。
語り継がれていたことが反転する“さかさ”、呪物の正体が最初に思っていたものと“さかさ”になっていく。そして星の正体。
正に、タイトルの“さかさ星”に納得、そうか目の前にもう答えを書いていたのかという、ミステリを読んでいる人は、読んでいて唸ってしまうでしょう。というか、私はそこまで読んで、タイトルに納得しまくりでした。
ただ、作者がどういうつもりで描いたのかはともかくとして、それを大上段にホラーと大声で宣伝した出版社が間違っているように思う。
読み終えた私からすると、これはホラーではなく、呪物の謎を解く、言わば呪物ミステリというべきもののような気がする。
そして、呪物のきっかけとして語られる真相は、ある意味呪術的なあの遊びの言葉なのだけど、その言葉がわかってしまったときの恐怖というよりも、あぁその言葉だったのねと言う納得感が強い。
ホラーというのではなく、呪いをかけるものと、それを阻み、呪いを阻むものとの闘いを描いたバトル呪術のダークファンタジーとして、続編を書いてくれたら、それはそれで楽しみな作品になると思うのだけど、どうなんでしょう。
ホラー大作というのでなく、呪物ミステリという気持ちで読めば面白い作品だと思います。