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「360度評価」の新境地ー組織変革への道標:いまのたかの組織ラジオ#225

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。

 今回は、第225回目「360度評価で経営課題を出し切る方法」でした。

 これまでの360度評価の概念を見直し、単なる個人の能力評価ツールを超越した、組織全体の課題を明確化し、経営戦略を再構築し、理想的な企業文化を育むための革新的なアプローチが提案されています。

 これにより、企業が内に秘める潜在的な課題を明るみに出し、従業員のエンゲージメントを飛躍的に高め、組織全体のパフォーマンスを向上させる、まさに触媒のような役割を担うことが期待できます。

 これまで見過ごされてきた組織の深層心理に光を当て、企業の持続的な成長を力強く支援する、組織開発の新たな地平を拓く試みといえるでしょう。組織の潜在能力を最大限に引き出すための羅針盤として、今回の議論は、多くの企業にとって示唆に富むものです。私も、企業人事として、また、主に人事領域において企業支援を行っている者として、多くの気づき、ヒントが得られたところです。

 「360度評価」は多くの場合、マネージャーやリーダー層の能力開発を主眼とし、上司、同僚、部下からの形式的なフィードバックに基づいて実施されてきました。しかし、今回取り上げられたされた組織開発の研修では、評価対象を役員層にまで大胆に拡大し、さらに、比較的小規模な企業においては、一般社員からの「自由記述コメント」を積極的に収集するという手法でした。

 この「自由記述」こそが、従来の評価方法では捉えきることが極めて困難であった、組織の深層心理、すなわち従業員の奥底に眠る不満、潜在的なニーズ、改善への並々ならぬ熱意などを、まるで魔法のように浮き彫りにする、「パンドラの箱」を開けるような、革新的な試みといえるでしょう。

 これまで表面化することのなかった真実を明らかにし、組織変革への第一歩を踏み出すための重要な鍵となるのです。この自由記述コメントの活用は、組織の潜在能力を解放し、従業員エンゲージメントを高めるための、非常に効果的な手段となります。

忖度なき声:匿名性が生み出す率直な意見

 ES(従業員満足度)調査や人事部門によるインタビューでは、回答者が企業側の意向を過度に忖度したり、表面的な意見に終始したりする傾向が顕著に見られます。

 しかし、徹底的な匿名性が厳守された自由記述形式においては、従業員は自身の心に秘めた正直な気持ちを、何の躊躇もなく、率直に表現することができます。過去の出来事に対する未解決の感情、組織内の人間関係における軋轢、非効率的な業務プロセス、経営陣に対する期待と失望など、企業が長年抱え続けてきた、様々な問題点が、具体的なエピソードを伴って、まるで鮮やかな絵画のように、生き生きと語られます。

 これらのコメントは、単なる不平不満の羅列として切り捨てるのではなく、従業員が組織に対して抱く深い期待、組織をより良くするための具体的な改善提案、そして何よりも組織に対する深い愛情の表れとして、真摯に受け止めるべきでしょう。これらの率直な意見こそが、組織変革の原動力となり、より良い未来を創造するための礎となります。

リセットボタン:合宿形式の議論がもたらす変革

 今回は、収集された自由記述コメントを、役員のみが参加する特別な合宿形式の議論に持ち込んでいます。そうなるとこの合宿は、単なる反省会や自己批判の場として終わらせるのではなく、組織全体の構造、戦略、文化を根本的に見直し、再構築するための、まさに「リセットボタン」を押すような、極めて重要な機会となります。

 役員は、従業員からの貴重なフィードバックを真摯に受け止め、自己の行動や意思決定が組織全体に及ぼす影響について、深く内省します。また、従業員からの具体的な改善提案を積極的に参考にしながら、非効率的な業務プロセスの改善、硬直化した組織構造の見直し、コミュニケーションの活性化など、組織の課題解決に繋がる、具体的なアクションプランを策定していきます。この合宿は、組織の現状を打破し、新たな成長段階へと導くための、極めて重要なステップとなるでしょう。

矢面に立つ覚悟:変革を推進するリーダーシップ

 研修の効果を最大限に引き出すためには、役員自身が「矢面に立つ覚悟」、すなわち、批判的な意見や厳しい指摘を真正面から受け止め、自己の成長の糧とする覚悟を持つことが、何よりも不可欠です。自己の保身や言い訳に終始するのではなく、従業員からのフィードバックを、組織と自己の成長のための貴重な機会と捉え、積極的に自己変革に取り組む姿勢が強く求められます。

 また、役員は、単に表面的な不満を解消するだけでなく、従業員のモチベーションを阻害している根本的な原因を的確に特定し、組織全体でその解決に取り組む必要があります。
 例えば、非効率的な会議体質、過剰な内向き志向、不透明な評価制度など、従業員のやる気を奪う要因を特定し、具体的な改善策を実施することで、組織全体のエンゲージメントを劇的に高めることができます。真のリーダーシップとは、困難な状況に臆することなく、変革を推進する力であり、その原動力は、従業員からの信頼と共感であるといえるでしょう。

進化を続ける組織:継続的なフォローアップの重要性

 研修後も、その効果を持続させ、組織を継続的に進化させるためには、組織的なフォローアップが不可欠です。合宿で議論された内容や策定されたアクションプランを、組織全体に透明性を持って共有し、進捗状況を定期的に確認することで、改善活動の継続性を確保します。
 また、従業員からのフィードバックを継続的に収集し、改善活動の方向性を適宜修正することで、組織全体の進化を促進します。透明性の高いコミュニケーション、公正な評価制度、成長機会の提供など、従業員が組織に対する信頼感を高めるための施策を継続的に実施することで、長期的な組織の成功に繋がるでしょう。
 組織は、常に変化し続ける環境に適応するために、自己変革を繰り返す必要があります。そのためには、継続的な学習と改善が不可欠であり、組織全体でその重要性を認識し、積極的に取り組むことが求められます。

生きた組織を創る:共創の精神

 今回番組で取り上げられた組織開発研修は、中小企業だけでなく、大企業においても、特定の部門単位で応用することが可能です。部門長が率先してメンバーからのフィードバックを求め、組織文化や業務プロセスの改善に繋げることで、より柔軟で創造的な組織を構築することができます。特に、変化の激しい現代社会においては、組織全体が常に自己変革を続けることが、競争優位性を維持するために不可欠です。

 今回提案された組織開発研修は、従来の360度評価の概念を大きく拡張し、組織全体を活性化するための、極めて強力なツールとなり得ます。ただし、その効果を最大限に発揮するためには、経営陣の意識改革、組織全体の協力、そして何よりも従業員に対する深い敬意が不可欠です。従業員一人ひとりの声に耳を傾け、対話を通じて組織全体のエンゲージメントを高めることで、持続的な成長を可能にする、まさに「生きた組織」を創り上げることができるでしょう。体温を感じるコメントを組織の血液として循環させ、組織全体を健康で活力あふれる状態に導くことこそが、この研修の最終的な目標であるといえます。このプロセスは、単なる組織運営の改善にとどまらず、組織に関わる全ての人々が成長し、自己実現を達成できる、まさに「共創」の場を創り出すと言えるでしょう。組織全体が互いに尊重し、協力し、共に成長していく、理想的な組織の姿を実現するための、革新的なアプローチが提示されています。

企業人事の視点から考えること

 今回の研修プログラムは、単なる人材育成の枠を超え、組織全体の課題を明確にし、従業員エンゲージメントを向上させ、最終的には組織全体のパフォーマンスを飛躍的に高める可能性を秘めています。
 しかし、その潜在能力を最大限に引き出すためには、企業人事部門が戦略的かつ多角的な視点から、周到な計画、実行、そして継続的な評価を行う必要があり、単なる人事施策の一つとして捉えるのではなく、組織変革を推進するエンジンとして位置づけることが重要でしょう。もう一段の考察を進めてみます。

1. 人材開発と組織開発の有機的な統合:個の成長を組織の成長へ、組織の成長を個の成長へ

  • 多角的な視点
     
    360度評価は、個々の従業員の能力開発を主たる目的としていましたが、今回の研修プログラムは、組織全体の潜在的な課題を解決し、持続的な成長を促進するという、より広範な視点に焦点を当てています。個人のスキルアップと組織全体の目標達成を緊密に連携させ、両者の相乗効果を最大化するという、統合的な視点が極めて重要となります。組織全体のビジョン、戦略、目標を明確にし、個々の従業員が自身の役割と貢献を明確に理解できるようにすることで、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能になります。

  • 人事部門の重要な役割
     
    個々の従業員の評価結果を、組織全体の課題と的確に紐づけ、綿密に設計された研修プログラムや、個々のキャリアパス設計に有機的に反映させるという、極めて重要な役割を担う必要があります。個人の強みを活かし、弱みを補完するような育成計画を策定し、組織全体の能力底上げを図ると同時に、個人の成長意欲を刺激し、モチベーションを高める必要があります。個人の成長が組織の成長を力強く牽引し、組織の成長が個人の更なる成長を後押しするという、理想的な好循環を生み出すための、綿密な仕組みを構築することが、人事部門の重要な使命といえるでしょう。

  • 組織全体を俯瞰するKPI設定
     
    研修プログラムの成果を客観的に測定するためのKPI(重要業績評価指標)は、単に従業員の能力向上を示す指標に限定されるべきではないでしょう。組織全体のエンゲージメントレベル、従業員の離職率、組織全体の生産性などの、組織パフォーマンスを総合的に評価する指標と、有機的に関連付けて設定する必要があります。組織全体のパフォーマンス向上に直接的に貢献するような、戦略的なKPI設定が不可欠であり、研修プログラムの有効性を客観的に評価し、改善につなげることが重要です。

2. 心理的安全性の確保と従業員エンゲージメントの飛躍的な向上:本音を引き出す信頼関係の構築

  • 心理的安全性への深い理解
     
    自由記述コメントは、組織の現状に対する率直な意見や提案を含む、非常に価値の高い情報源となります。しかし同時に、批判的な意見や個人的な感情も含まれる可能性も否定できません。従業員が安心して、自身の考えや意見を率直に語れる、心理的に安全な環境を醸成することが、何よりも不可欠となります。意見を表明することに対する恐れや不安を払拭し、建設的な対話と協調を促進する文化を育むことが重要です。

  • 人事部門の主導的な役割
     
    研修プログラムの目的や匿名性を、従業員に対して明確かつ丁寧に伝え、個人が安心してコメントを投稿できるような、心理的に安全な環境を整える必要があります。また、提供されたコメントの内容に基づいて、何らかの不利益を被る従業員が発生することのないよう、公平性を確保するための、断固たる措置を講じる必要があります。情報の透明性を確保し、従業員からの信頼を得ることが、組織全体のエンゲージメントを高めるための基盤となります。

  • 双方向コミュニケーションの重視
     
    研修プログラムの実施後には、結果や組織として実施する具体的な改善策について、透明性の高いコミュニケーションを積極的に行い、従業員の不安を解消し、組織に対する信頼感を高める必要があります。一方通行的な情報伝達に終始するのではなく、従業員からの質問や意見を受け付け、双方向のコミュニケーションを心掛けることが極めて重要となります。組織全体で課題を共有し、共に解決策を模索することで、従業員は組織の一員としての帰属意識を高め、より積極的に組織に貢献しようとする意欲を高めることができます。

3. 経営層の強いコミットメントと変革を牽引するリーダーシップ:トップの覚悟が組織を変える

  • 経営層の参加と理解
     
    研修プログラムの成功は、経営層が積極的に参加し、その結果を真摯に受け止め、組織変革を主導するという、強いコミットメントにかかっています。経営層が率先して行動することで、従業員は組織が変化を真剣に受け止めていることを実感し、変革への抵抗感を軽減し、より積極的に協力するようになります。経営層のリーダーシップは、組織全体の文化を変革し、持続的な成長を可能にするための、最も重要な要素の一つと言えるでしょう。

  • 人事部門による積極的な働きかけ
     
    人事部門は、経営層に対して研修プログラムの重要性を丁寧に説明し、理解を求め、積極的な参加を促す必要があります。また、研修プログラムの結果に基づいて、経営戦略や組織構造を見直すなど、具体的な行動を促すという、極めて重要な役割を担います。経営層に対するアドバイスやサポートを通じて、組織変革を効果的に推進する必要があります。

  • 組織文化の変革
     
    経営層が自ら変化を率先することで、組織全体の文化を根本的に変革することが可能となります。失敗を恐れず、積極的に新しいことに挑戦する文化、従業員の意見を尊重し、共に成長していく文化、創造性と革新性を重視する文化など、組織の長期的な成功に不可欠な文化を醸成することが、経営層の重要な使命となります。

4. データ分析と活用:客観的な視点による課題の可視化

  • 自由記述コメントの価値
     
    収集された自由記述コメントは、単なる個人的な意見の寄せ集めではなく、組織の潜在的な課題を特定するための、非常に価値の高いデータとして捉えるべきです。これらのデータを客観的に分析し、組織の抱える課題や改善すべき点を明確に特定することが、組織変革の第一歩となります。データに基づいた意思決定を行うことで、感情的な判断を排除し、より効果的な対策を講じることが可能になります。

  • 人事部門の分析力
     
    データの分析スキルを持つ人材を育成し、あるいは外部の専門家を活用するなどして、コメントの内容を定量的に分析する必要があります。ポジティブな意見、ネガティブな意見、提案、要望などを分類し、それぞれの頻度や傾向を把握することで、組織の強みと弱みを明確にすることができます。分析結果を基に、優先順位をつけた改善策を立案し、計画的に実行に移す必要があります。

  • テクノロジーの活用
     
    テキストマイニングや自然言語処理などの高度なテクノロジーを活用することで、大量のコメントを効率的に分析することができます。また、分析結果をわかりやすいグラフや図表として可視化することで、課題をより理解しやすくし、関係者との共有を容易にすることができます。テクノロジーを積極的に活用することで、分析の精度と効率性を高め、より効果的な組織変革を推進することが可能になります。

5. 倫理的配慮と公平性の確保:信頼を守るための透明性と公正さ

  • 倫理的リスクへの意識
     
    匿名性の確保、プライバシーの保護、評価の公平性など、倫理的な問題に細心の注意を払い、適切な管理体制を構築することが極めて重要です。個人の評価が不当に操作されたり、個人的な偏見に基づいて判断されたりすることのないよう、厳格なルールとプロセスを確立する必要があります。

  • 人事部門の責任
     
    データの収集、分析、保管、利用に関する明確なルールを策定し、全ての従業員に周知徹底する必要があります。また、倫理的な問題が発生した場合の対処方法についても、事前に明確化し、従業員が安心して相談できる体制を整えておく必要があります。

  • 透明性の確保
     
    評価プロセスや結果について、可能な限り透明性を確保することが、従業員の組織に対する信頼を得るために不可欠です。ただし、個人のプライバシーに関わる情報については、厳重に保護し、慎重に取り扱う必要があります。情報の公開範囲や共有方法については、従業員と十分に協議し、合意を得ることが重要です。

 人事として、今回の内容を真に成功させるためには、上記のような多角的な視点から綿密な計画を立案し、責任感を持って実行し、継続的に評価を行う必要があります。単なる人材育成プログラムの一環として捉えるのではなく、組織全体の文化を醸成し、戦略的な変革を促すための重要な取り組みとして位置づけ、経営層のコミットメントを得ながら、長期的な視点を持って取り組むことが、組織の持続的な成長を可能にする鍵となるでしょう。

役員たちが自然に囲まれた会議室で、組織開発について真剣に議論しています。大きなスクリーンには匿名の従業員フィードバックが映し出され、参加者は活発に意見を交わしながら解決策を模索しています。外の緑豊かな景色が、オープンな対話と組織の変革を象徴し、柔軟で革新的な企業文化を築くための重要な瞬間です。


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