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浦上咲を・・かたわらに ζ (dzeta)
Episode6 三世の迷い道
咲が僕にギターを弾けという・・。
「いま流行ってるんだよ、現在、過去、未来~」
「ああ、知ってる、よし任せろ。」
僕はギターをつま弾く、
咲は、オリジナルの歌手より上手く歌っている。
現在 過去 未来
あのひとにあったなら
私はいつまでも待ってるって
誰か伝えて
心が離れかけた男にすがる女心をうたった切ない歌詞だった。
「こんな歌が好きなのか~。」
咲はくすくすっと笑うと。
「別に好きって訳じゃないけど、なんか、言葉が印象的なんだな~。」
「現在過去未来とか?」
「うん、迷い道くねくね~、とかね。」
なるほど、言葉の光のようなもの・・・。それがこの歌詞にはいくつかあるのだ。
詩の内容はいささか陳腐だ。
失恋した女性が、捨てきれない思いを切々と歌う恋歌で、およそどこか跳んだ感じのする咲には、あまりイメージ的にはそぐわない感じがしていた。
若いくせに、咲には執着のようなものがあまり感じられないのだ。かといって、投げやりかと言えばそうでもなく、適当に俗っぽい感じもする。
「せんぱい、Fのコードって、よく押さえられるね。」
「え?・・・・ははは。」
咲は手が小さく、Fコードの弦をうまく押さえられないのだ。
「あたしが弾くといっつもぼよよん~ってなっちゃう。」
「咲は手がちいちゃいからなあ。」
「う~ん、ちょっと悔しいな。」
咲は僕からギターをひったくり、自分でボロンボロンと弾き始めた。
正直言って、相当へたくそだ。
僕は苦笑した。
「現在・過去・未来かぁ・・・・。」
僕は、ふとおもしろいことを考えてしまった。
ギターをもてあそびながら、僕は咲にたずねた。
「咲を生み出した親は何人?」
咲はケラケラと笑った。
「センパイ、アタマ大丈夫?お父さんとお母さんの二人に決まってるじゃない。」
「じゃ、じゃ、その親を産みだした親は何人?」
「おじいちゃんとおばあちゃん、4人。」
「じゃ、おじいちゃんとおばあちゃんを産んだ親は?」
「・・・・えっとね、ちょっと待って・・・・。」
咲は中空を仰ぎながら、指を折って数える
「8人!」
「じゃ、そのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんを産んだ親は?」
「ん~~!もう!センパイのバカ!」
咲はむすっとむくれた。
僕は、紙に書きながら、咲と一緒に数えてみた。
自分につながる祖先の数を、実際数えてみる。
4代前の高曽祖父母は16人、5代前までは親族になるから、直系だけで32人。
10代前にさかのぼると1024人、20代前だと百万人を超してしまった・・。その5代前はなんと一千万人以上だ。
親子の年齢差が25歳だとして、、たかだか1000年くらい前には自分につながる先祖は一千万人以上もいることになる。
「すごいね~~~。あたしって、紫式部の子孫かも知れないのか~。」
咲は目を丸くした。
「中には近親婚などもあったから、これほどではないだろうけど、それにしてもものすごい数だね。」
そうかんがえてみると、この一千万人の誰が欠けたとしても、僕や咲はこうして存在しないことになるわけだ。
なにやら、とてつもなくすごいことのように思えてくるから不思議だ。
「過去があるから、今があるということなのね・・・・。」
咲はそうつぶやいた。
至極、当たり前のことだ。
「あれー、そしたら・・・。」
咲が僕のかおをじっと見つめた・・。
「あたしに子供ができたら、その子孫もやっぱり何人にもなるって事?」
「計算上はそうなるよね。」
咲はそこで、「現在・過去・未来・・・・」と口ずさんだ。
「三世の諸仏って言葉があるよね。三世っていうのは、現在・過去・未来って事?」
「へぇ、そんな言葉、どこから仕入れてきたの?」
「こないだ京都にお友達と行ったときに、写経したのよ。そのときに出てきてた。」
「般若心経だね。」
「そうだよ、ハンニャシンキョウ。」
咲はアクティブな娘だ。好奇心も旺盛だから、何でもやってみる傾向がある。
「咲、それは「はんにゃしんぎょう」って読むんだ。」
「ふ~んそうなの、勉強になりましたぁ」
「三世の諸仏とはね、ブッダというのは過去にもたくさんいて、これから先もたくさんのブッダが現れるということなんだ。」
「え?ブッダってお釈迦様の事じゃないの?」
「お釈迦様はね、ゴータマブッダという、たくさんいるブッダのうちの一人だって事なんだよ。」
咲は、なんだか判らない顔をした。
「え?それじゃあ、ブッダって一人じゃないって事なの?」
「ブッダというのはね、「さとった人」という意味なんだよ。」
「それじゃ、どんな人でもさとったら「ブッダ」になれると言うこと?」
「そういうことになるね。」
咲はけらけらと笑って、
「それじゃ、あたしがさとったら「咲ブッダ」になるという事ね?」
僕は笑った。
「そういうこと、そういうのを「如来蔵」といって、この世にあるあらゆるものはみんな仏であるという考え方なんだ。」
「なぜ、そういう考えになるのかな・・・・・。」
「簡単なこと、自分を生み出した幾千万の先祖は、今どこにいるんだろうって考えたら、解らないか?」
「ああ、そうか~~。」
咲はそこでしみいるような顔で笑った。
この世のものは、何もかも形を変えながらずっとそこに生滅を繰り返しているのなら、自分を生み出した祖先たちの存在は、ありとあらゆるものに姿を変えてそこにある。
こういうことがいえる。
だから、この世のものすべてのものは、自分とつながり、そして自分ものの中にいてこうして生かされている。
そこには過去も今も未来もなく、変わらずにその現象を過去から未来に繰り返していくのだ。
そして、今この時は一瞬にして過去になり、未来はあとからあとから次々と「現在」を繰り返していく。
この事実を真に「覚った」ものが「ブッダ」なのだ。
「と、こういうことですよね。センパイ。」
「と、僕にに尋ねた時点で、キミは「ブッダ」失格。」
「え~~~?どうしてよ~。?」
「そうやって言葉に対して、いちいちむくれるからさ~(^▽^) 」
「センパイのいじわる!凸(`△´+)」