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まつもと城下町湧水群解剖 ~令和3年度データより~

はじめに

 松本でも桜が咲き、ひどい花粉症が発症し、やっと春がやってきた気分です。

 以前の記事に書いたとおり、松本の街なかは湧水が多くあり、それらの一部は環境省が選定した平成の名水百選まつもと城下町湧水群として選出されています。

 これから大型連休を控えてオンシーズンとなる松本。松本を訪れた際に湧水も楽しんでいただきたいので、前回同様、ちょっとだけディープな分析をしてみたいと思います。

 今回は松本市が公開している新しい水質データを使って、前回と同様の方法で湧水群を調べてみました。

湧水めぐり

 この記事では、湧水めぐりについては取り上げていません。

 過去の拙記事をご覧いただくか(記事の最後にリンクを貼っておきます)、松本駅の観光案内所や松本城近くの観光情報センターなどで入手できるパンフレットをご覧ください。

硬度とpHでマップにしてみる

 おいしい水の話でよく聞かれる指標に、水の硬度があります。水の硬度とは、水に含まれているカルシウムとマグネシウムの量の指標で、これらが多く含まれていれば硬水、少なければ軟水といいます。

 また、よく聞かれる指標にpHがあります。アルカリ性又は酸性といった、水溶液の特性を示す指標で、数字が7未満を酸性、7が中性、7を超えるとアルカリ性といいます。

 このよく聞く2つの指標をマップの縦軸と横軸にして、各湧水のデータをプロットすると、特性が分かれて面白いことが分かります。実際に「松本神社前」と「源智の井戸」で"利き水"してみましたが、味音痴な自分にも明確に判るくらいに違います。

 厳密に言えば、硬度やpH以外にも味わいに関連する要素がありますが、あまり細かく見ても複雑化するだけですし、理解できない指標を使っても意味がないと考えますので、ひとまずはこれで必要十分だと思います。

 過去記事では2019年のデータで湧水群を調べてみましたが、今回は松本市が公開している令和3年度(2021)の水質データを使ってみます。

硬度-pHマップ

 それでは、できたマップを見てみます。

主要湧水の 硬度-pHマップ (令和3年度データによる)

 相変わらず、松本神社前は突出した「アルカリ性軟水」であることが分かります。また、源智の井戸も「酸性寄りの硬水」で、この2つは2019年のデータと同じく両極端に位置しています。それ故に利き水をしても分かりやすいということなんですね。

 その他の湧水では、値の振れがあるものの、どう違うかは一見して分かりにくいですね。
 そこで、2019年のデータと2021年のデータとの差を取ってみることにしました。

主要湧水の 硬度-pH 差 マップ

 こちらのマップでは、硬度の差を横軸に、pHの差を縦軸にとっています。2019年のデータを基準にした時の2021年のデータが、左側へいくほど軟水になり、右にいくほど硬水になったことになります。同様に、下にいくほど酸性に、上にいくほどアルカリ性に変化したことを表します。
 計算した湧水は17ヶ所。「深志の湧水」は2019年のデータがないので除外しました。また、「大名町大手門の井戸」は松本市立博物館移転工事のため2021年のデータがないので除外しました。

 差のマップを見ると、硬度は±10mg/L以内に、pHは±0.5以内の変化に留まっています。標準偏差は硬度で4.5mg/L、pHで0.2です。

 硬度でみると、硬水側に振れた湧水が6、軟水に振れた湧水が7、変化のなかった湧水は4で、きれいにバラけている感じです。
 一方のpHでみると、酸性側に振れた湧水は11、アルカリ性側に振れた湧水は5、変化のなかった湧水は1で、酸性になった湧水の方が多かったことが分かります。

 この中で、「伊織霊水」は突出した変化値(硬度差, pH差) = (+10, +0.5)となりました。
 伊織霊水は蔵が立ち並ぶ中町からイオンモール松本へ向かう途中の女鳥羽川寄りにあるので、変化の要因として真っ先に女鳥羽川の水質変化を想像します。ところが、同じ女鳥羽川沿いにある「なわて若返りの水」は酸性に振れてますし、同じ象限(硬度差が+, pH差が+)にある他の湧水は地理的に離れた場所にあります。

2019年6月撮影 伊織霊水

 水質と地理的な位置関係だけでは、変化の要因を探るには難しいようです。

統計的にみてみる

 そもそも気になるのは、この変化の範囲が季節や年毎の水質のばらつきの範囲と比べて異常な値になっていないか、値として妥当なのかどうか、ということです。異常なデータがあれば市から注意喚起が出るはずなので、目くじら立てる話でもないですけど…。

 専門家でない上にデータが2年分しかないので結局は何とも言えないというところに落ち着きますが(苦笑)、各湧水の硬度とpHを年ごとに計算した値を挙げておきます。

 標準偏差や標準誤差をみると大きく変化していません。この程度の水質変化は季節や年毎のばらつきの範囲内とみていいんじゃないでしょうか。

まとめ

 まつもと城下町湧水群を2021年度の硬度とpHを使って調べてみました。

 「源智の井戸」や「松本神社前井戸」の水質値は2019年と同じく特徴的な値を示していました。2021年のデータでは、2019年よりもやや酸性に振れた湧水が多かったものの、季節や年毎のばらつきの範囲内とみて良さそうです。

 これから気温が上がり、観光や散策にいい季節になります。松本の街なかに点在する湧水も楽しんでもらえたらと思います。

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