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小説【月並な話】

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-本が好きなあなたへ。少し毒のある物語を- 140字以内の掌編作品たち。 『読みたい』はこちらで!
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2020年4月の記事一覧

🌛月並な話 vol.16 【子供らしく】

🌛月並な話 vol.16 【子供らしく】

子供らしく母と手を繋ぎ、齢3歳になる私は考えていた。
母は私に「お空の雲。ソフトクリームみたいだね」と言った。
だが、雲は上昇気流によって惑星表面の大気中に浮遊する水滴や氷の粒のことであり、
冷たくはあってもソフトクリームではない。
そう思ったが、
「わーおいしそう!」と子供らしく元気にいってみた。

🌛月並な話 vol.15 【天才の苦悩】

🌛月並な話 vol.15 【天才の苦悩】

天才の苦悩
ある日急に、部屋の色がうるさく感じた。
色のついたものは全部捨てて
カーテンや椅子も白くした。
これでやっと集中できる。
そう思ったら、今度はチクタク、時計の音がうるさくなった。
時計を壊し、準備は整った。
真っ白な部屋に静寂が戻る。
この部屋には私とピアノだけ。
これでようやくピアノが弾ける。

🌛月並な話 vol.14 【ペトリコール】

🌛月並な話 vol.14 【ペトリコール】

ペトリコール
差した傘が水滴を弾いて、激しい音を立てた。
こんな天気の時は、母さんはずっと家に居てくれたし、機嫌がいい時には黄色いレインコートを買ってくれた。
僕は毎日逆さまのてるてる坊主を作って吊るす。
優しい母さんが好きだった。
どこからか土の匂いがする。
服が冷たいけれど僕は外でずっと待っている。

🌛月並な話 vol.13 【歯車のまち】

🌛月並な話 vol.13 【歯車のまち】

歯車のまち
その街は歯車でできていた。
あちこちで蒸気が上がり、クレーンや鎖の動く音がする。ブリキの魚が空を泳いでいる。
僕と妹は廃棄された鉄の山で遊んだ。
ネジやナットを拾い上げては合うか確かめてみる。「お兄ちゃーん」
見上げると、大きなキャタピラが山に刺さっていた。今日の寝床はここが良さそうだ。

🌛月並な話 vol.12 【メトロノーム】

🌛月並な話 vol.12 【メトロノーム】

メトロノーム
頭の中でずっとメトロノームが鳴っている。
右。左。
言葉を覚えた時も、砂場で喧嘩したあの日も、
彼とベッドに入る時だって。一定のリズムでそれは鳴り続けている。子供が産まれて、孫が産まれて、管に繋がれて横になる今も。
私は幸せだった。
今だんだんとメトロノームのリズムがゆっくりになっていく。

🌛月並な話 vol.11 【阿・吽】

🌛月並な話 vol.11 【阿・吽】

阿・吽
あいさーちょいさーあいあいさー。
「親方―!」「もう少しだ綱を引け!」

あいさーちょいさーあいあいさー。
「親方―!」「今日がいい日になればそれでいい」

あいさーちょいさーあいあいさー。
「親方!子供が産まれました」「おめでとう!」

あいさーちょいさーあいあいさー。
「それ声出せ。綱を引けー」

🌛月並な話 vol.10 【メモ】

🌛月並な話 vol.10 【メモ】

メモ
僕は明日の僕にメモを残した。
赤と黄色のレンガだらけの街で、
迷わず君に辿り着けるように。
途中のパン屋でカンパーニュを買い、花屋では春色のチューリップを買おう。
フローテ・ローゼン通りを左。
君は退屈に窓のカーテンを眺めているだろうから。メモに残した言葉を握りしめ、明日の僕は家を出る。

🌛月並な話 vol.9 【時計じかけ】

🌛月並な話 vol.9 【時計じかけ】

時計じかけ
私はずっと時計の針を探している。
長針はボルドー色のカーテンの下。
短針はスノードームの中で見つけた。残るは秒針。石畳のレンガを這い蹲りながら探す。
腰が痛む。気づけば随分と歳をとってしまった。
髭の紳士の胸ポケットから遂に秒針を見つける。
針を時計につけると、
街の人々は一斉に動き始めた。

🌛月並な話 vol.8 【旅行】

🌛月並な話 vol.8 【旅行】

旅行
僕は彼女と旅をしている。額の汗を拭い、大きなボストンバックをかけ直す。
昨夜、喧嘩した彼女は、一言も口を聞いてくれなかった。
神社の赤い鳥居で記念撮影する。
怪訝そうに写真を撮った人は僕たちを見た。
サイレンが近づいてくる。
警官がバックの中を見せろと言った。
バックには彼女が詰まっている。

🌛月並な話 vol.7 【秘め事】

🌛月並な話 vol.7 【秘め事】

秘め事
赤いリボンと銀色スプーン。
それが幼い僕らの合言葉だった。
街が眠りについた後。
君の部屋の窓を小さく二回ノックする。
赤いリボンと銀色スプーン。小さな秘め事。
君が外の僕へ手を差し出す。その手を掴む。
音を立てぬよう、慎重に。
部屋は甘い匂いがする。
月明かりが君の顔を照らし、僕は少し笑った。

🌛月並な話 vol.6 【密室】

🌛月並な話 vol.6 【密室】

密室
鉄格子の間から月を見ていた。
その僅かな隙間が私と外の世界を繋ぐ唯一のものだ。
ここから抜け出したい。
冬の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みたい。
私を閉じ込めたヤツの足音が聞こえてくる。
憎む気持ちもいつの間にか薄れている。
身体をスライムみたいにしてあの格子をすり抜ける。そんな夢を見た。

🌛月並な話 vol.5 【赤い糸】

🌛月並な話 vol.5 【赤い糸】

赤い糸
小指に結ばれた赤い糸を辿ったら
毛むくじゃらのおじさんに出会った。
「おじさんが運命の人かよ」ってげんなりしたら
相手も不服そうな顔をしていたので殴ってやりたくなった。
よかったらとおじさんがチョコをくれた。
寒い夜にはおじさんの毛むくじゃらが暖かいかもなって私は思った。

🌛月並な話 vol.4 【父の行方】

🌛月並な話 vol.4 【父の行方】

父の行方
ハゲたモグラを探しています!
・・・じゃなかった、ハゲたモグラみたいな父を探しています。
突然いなくなってしまいました。
父が好きなワンタン麺屋さんにも来ていないようです。
何方かご存知ないでしょうか。
見た目?どう言えばいいでしょう。
親指?いや、やっぱりハゲたモグラなんです。

🌛月並な話 vol.3 【斎藤さんの話。】

🌛月並な話 vol.3 【斎藤さんの話。】

斎藤さんの話。
"斎藤さん"は私がまだ幼稚園児だった頃から逆さまだった。
近所の桜並木にぶら下がっていて、
私が通る度、斎藤さんは必ず手を振ってきた。
お母さんに聞くと「見ちゃいけません」と言った。それでも斎藤さんは私へ手を振る。
大学生になった今でも。逆さまで。笑顔で。
次は話しかけてみようかな。