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kokoro

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医療現場のリアルを公開。突然の事故や病気による障害、余命宣告をされた患者さんたちの言葉から教えられる人生や命についてを語っています。
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#患者

今、お父ちゃん焼いている時間だわ

「今、お父ちゃん焼いている時間だわ」 ある日、リハビリを行うために患者さんのお部屋に行った際に患者さんから開口一番に言われた一言がこれでした。 私が担当していた患者さんの旦那さんは別の病院で入院中でした。夫婦揃って病気で入院をしていたのです。それも別々の病院で。 互いにかなり重症でお互いの病院を行き来することはできない状況が長く続きました。 そんな時、患者さんの旦那さんは亡くなりました。 死目にも会えず、葬式にも出られずの患者さんは今、何を思うのでしょうか。 「今

その家族の自撮りの意味、病院でのある光景

今回の記事はstand.fm「病院あるある探検隊」でも紹介した内容です。stand.fmでは今回の記事を音声で聞くことができます。 ある日の夕方、 私は、息子の保育園のお迎えのために足早に職場の敷地内を歩いている時でした。 「息子は泣いていないかな」 「今日は保育園で楽しんだかな」 と思いながら歩いている時、 私の歩行速度が急に遅くなりました。 それは目の前の光景に目を奪われたからでした。 敷地内のベンチに座る母親と病気を抱えた子供の姿。 子供はおそらく重度

non-fiction/早く旦那のところへ行きたいと言う患者さん

「もうここらでいいわ。早く旦那のところへ連れてって言ってください。」 「もうリハビリは良いです。」 こう言われた。 聞くと旦那さんは10年以上前に先立たれたようだ。 旦那さんは人柄も良く、常に優しい人で夫婦でたくさんの場所に旅行に行ったことが忘れられないと。 今、患者さんは重い脳の病気になったが、奇跡的にも回復し歩けるようになっている。 でも 「もうここらでいいわ。早く旦那のところへ連れてって言ってください。」 「もうリハビリは良いです。」 と言いあまりリハ

余命1ヶ月のこの人と私の間に流れる時間

「あーこの人は余命1ヶ月とさっき医師から告げられたんだったな。」 今は昔、私の目の前にいる担当患者さんは、家族に向けて遺書を書いている。 そんな大切な時に、「リハビリを一緒にしよう」と病室にきてしまった。 余命1ヶ月のこの人は、看護師さんから借りたバインダーに真っ白なコピー用紙を挟んで何と書こうとしていたのだろう。 確か子供はまだ私と同じくらいの年齢だったな。 「失敗した・・・もう少し時間をあけてくれば良かった」と思っていたその時、この人は「お、来たか。やるか。」と

医療現場で感じた心のゆたかさの大切さ

私はリハビリテーションの仕事に関わっている医療従事者です。 リハビリって聞くとストレッチや筋トレをしたり、歩けるようになるための練習をしたりするものというイメージが強いでしょうが、それだけではありません。 今、私は白血病や悪性リンパ腫などのいわゆる「がん」の患者さんと一緒にリハビリをすることが多いです。 もう数えきれないほどの患者さんと一緒に病院での時間を過ごしてきましたが、全員を覚えていません。 私が覚えている患者さんは限られていて、それもそのほとんどが「亡くなった