誰が管理監督者なのか
こんにちは。林戦略社会保険労務士事務所です。
秋も徐々に深まってきましたね。
私は最近発売された「No Rules」を夜な夜な読み進めています。
「アメリカは働き方自由でいいな」
「日本も同じようにできないかな」
「おっ、管理監督者になれば自由に働く時間が決められるのか」
「よし、導入しよう!」
さすがに上記のような形で進めることは少ないと思いますが、一方で管理監督者の要件を吟味せずに進めてしまっている会社もあるのではないでしょうか。(裁量労働制も同じような発想から運用しがちですが、こちらも制限厳しいので、それはまたの機会にお伝えします)
この記事では管理監督者とは何か、どんな人が該当するのかをご説明していきます。
いきなり結論:管理監督者に該当するかどうかは実態を知らないと判断できない
先に結論を言ってしまいますが、管理監督者に当てはまるかどうかは各会社の置かれた状況によって変わってきます。指針によって該当者の要件が、抽象的でわかりづらいのはその為です。(※厚生労働省が作成したNGリストはある程度細かいですが、リストに当てはまらないからといって管理監督者であるとはいえない、と赤字で明言しています)
とはいえ、リスクポイントも明確にしておかないと
管理監督者の定義
管理監督者については労働基準法第41条2号で以下のように定められています。
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第 四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
管理監督者になるとどうなるのか
管理監督者になると、労働時間・休日・休憩・割増賃金の適用を受けなくなります。
つまり、
・出退勤の制限がない
・残業代対象外
になります。
注意点は2つです。
・深夜割増は他従業員と同様に適用される
・時間外労働は休日労働を含め、月100時間未満、2か月~6か月平均80時間以内
特に2つ目は働き方改革法案の一つとして中小企業でも2020年4月から適用された新しい規制なのでご注意ください。
「管理職」=「管理監督者」ではない
「マネージャーは部下をマネジメントするから管理監督者でしょ?」
「店長は店舗責任者だから管理監督者ですよね?」
こんな質問を受けることがたびたびあります。
マネージャー・店長=管理監督者ではありません。
もちろん、マネージャーや店長が管理監督者になることもありますが、役職がついたから管理監督者になるわけではありません。
管理監督者に該当するかどうかは、以下4つの観点から総合的に判断することになります。
ポイントは「職務」「権限」「勤怠」「処遇」
管理監督者どうか判断するためのポイントは「職務」「権限」「勤怠」「処遇」の4つから構成されています。
大事なことはすべての項目をクリアしていることです。1つとか2つだけクリアしていてもダメです。
それでは各ポイントについて見ていきましょう。
職務について
職務内容については、以下の考えが判断軸となります。
・労働時間、休日、休憩等に関する労働基準法の枠を超えて活動せざるを得ない職務を担当していること
例えば、店舗運営であれば予算作成、売上管理、労務管理などの経営に関する業務が挙げられます。注意点としては、上記業務を行っていたとしても、メイン業務が別にある場合は、管理監督者と認められない可能性が高くなるので注意が必要です。
権限について
2つ目の権限については、以下2点を網羅していることが必要です。
・経営に関する決定に参画している
・担当組織の労務管理に関する指揮権限がある
経営に関する決定については、必ずしも企業全体の運営ではなく、ある部門全体の統括的立場において部門全体の決定に参画していれば要件を満たしていることになります。
労務管理に関する指揮権限は、担当組織のシフト作成、採用、評価、昇降給、解雇について一定の権限を有していることが求められています。
勤怠について
3つ目の勤怠については、とてもシンプルです。
・出勤、退勤、休憩、休日について自由に決めることができる
シンプルですが、よくありがちな注意点があります。
それは「形式上は自由に決めることになっているが、実態は自由ではない」です。
例えば、店舗運営ではシフトの穴埋めが恒常的に発生しており自身が対応しなければいけない、ですがこれはNGです。
処遇について
最後の処遇について
・管理監督者にふさわしい報酬をもらっている
・遅刻、早退、欠勤等で控除されない
「いくらなら管理監督者として認められますか?」
これも良くご質問頂く内容ですが、状況によります、というのが正直な回答です。
とはいえ、これだと検証しようもないので過去の判例を元に目安を作ってみました。
・非管理監督者で最も給与の高い者が100時間残業した場合の給与と同等レベルか
・厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査による属性別平均年収を比較して一定程度高いか
最初の目安は社内比較時の基準です。(判例では、100時間残業が継続することは考えづらいから同等程度の報酬なら十分もらっている、という考えがありました)
2つ目の目安が社会比較時の基準です。ご自身の会社の平均年収がもともと上回っている場合にはあまり参考になりませんが、下回っている場合には注意が必要です。たとえ社内比較では優遇されていても社会的に見たときに同等もしくは低い場合は管理監督者と認められない可能性が高くなります。
直近の裁判結果は約8割が会社側の負け
直近10年間(2011年11月~2020年10月)までの判例を見ると、管理監督者かどうか争われた件数は13件、そのうち10件において会社側の敗訴となっています。割合にすると約77%が会社側の負けです。
中には年収1000万以上でも管理監督者と認められない判決が出ているので、報酬だけではなく、総合的に判断されるのが難しいところです。
まとめ
冒頭でもお伝えした通り、管理監督者かどうかは実態を把握しないと何ともいえません。ただ、裁判になると約8割の確率で会社側が敗訴になる事実から労務リスクは高い部類に入ります。
少しでも不安を感じた場合は一度、顧問社労士にご相談してみることをおススメします。
お問い合わせは弊事務所でも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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