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早坂 渚
2024年10月30日 13:00
この度は、小説『傍聴席のカケラ』を読みに来ていただきありがとうございました。1シリーズ完結の小説ではありましたが、1話から最終話まで思いの詰まった作品となりました。傍聴席のカケラのテーマは『占い師』。実は、制作に取りかかる前から、このテーマで小説を書くことは決まっていました。きっかけは、「占い師の世界って一体どんな世界なんだろう?」という、ふとした疑問でした。私たちが一
2024年10月29日 13:00
3人の裁判官の目は、明らかに霊能者の目。特に真ん中に座る裁判長は、悪魔に魂を売ったような鋭い目をしている。これは、純粋に、人間による裁判ではない。私が18年前に団体を一つ潰したという、嘘の証言。裁判官たちは、あたかも六花が被害者であるかのように見せかけ、この裁判をコントロールしている。18年前の山での記憶。私は当時、まだ7歳。幼いながらも、危険が迫っていることに気づき、崖か
2024年10月28日 13:00
裁判長の許可を得て、若手の警察官が証言台に立った。「被害者の花瀬麻也は、18年前に起きた警察官殺害事件を引き継いでいます。殺害されたのは、山村透。当時の捜査記録に、山村弁護士の長男であると記載があるため、弁護人の息子であることは間違いありません」「では、事件について、詳細を教えてください」「被害者である山村透は、当時、花瀬麻也の上司でした。もちろん、事件前から面識はあります。そして、事
2024年10月25日 13:00
六花は、私と目を合わせることなく、証言台に立った。「証人。あなたの名前と職業を教えてください」「水島六花。占い師をしております」堂々とした口ぶり。そして、不敵な笑み。心の奥底を悟られないようにするためか、彼女の瞳からは、霊能者特有の物々しさが際立っている。「水島という苗字ですが、もしかして……」「はい。私は、被告人である水島千代の母です」六花は、自ら母親であることを認め
2024年10月24日 13:00
裁判当日。法廷には、関係者や報道陣、傍聴券を手にした人など、多くの人が集まり、傍聴席を埋め尽くしていた。傍聴席から見て、左側に検察官と警察官、右側に弁護士と被告人。正面の一段高くなっている場所には、机と椅子が三つ並んでいる。出入りが自由な傍聴席。しかし、誰一人言葉を発することなく、全員、裁判官が来るのを静かに待っていた。そして、開始時刻になり、裁判官席の後ろから3名の裁判官が入
2024年10月23日 13:00
翌日、事件が発生した。麻也のアパートが何者かに燃やされた。今のところ、一般人が放火したのか、麻也のアパートにある証拠を隠滅するために事件の関係者が犯行に及んだのかは、分かっていない。どちらにしても、突然の犯行。唯一言えることは、千代が犯行に及ぶことはできないということ。通常なら、事件と関係ありそうな出来事が起これば起こるほど、千代の冤罪の可能性は高くなる。今回もそうなるはず
2024年10月22日 13:00
本部へと移された事件の管轄。これには理由があった。「被疑者を勾留します」一人の検察官が入ってくるや否や、その検察官は私を見て、すぐ勾留請求を行った。勾留とは、逮捕の後の身柄拘束期間のこと。通常、10日ほどで釈放される。しかし、私の場合、さらに期間を伸ばされることになった。検察官が勾留を請求しなければ、被疑者である私は今頃釈放されている。一般的に、被疑者が次の三つのいずれかに
2024年10月21日 13:00
「そうですか。彼女は逮捕されたのですね」黒い池と大きな松の木を前に、神主とハジメは、神妙な面持ちで、話し合いを行っていた。「はい。彼女の運命は変えられなかったようです。特に、千代さんともなると……」誰が敵で誰が味方なのか。二人はもう分からなくなっていた。互いに、麻也と千代の未来が見えていた二人。そのため、判断が難しい。麻也がいなくなり、千代が逮捕される。この二人の未来は
2024年10月18日 13:00
「私が犯人にされている?」動画に映っている私の服装を見る限り、1時間ほど前に、あのブティック通りを歩く私の姿を撮ったもの。この瞬間もアプリ上で拡散され続けている「墨田区の偽占い師千代」というタイトルのショート動画。この動画の概要欄には、「墨田区のマンションで男性一人が何者かに殺害された。被害者とみられる男性は警察官で、昨日から行方不明となっており、現在、同居中とみられる女性を捜索し
2024年10月17日 13:00
次の日の朝も、テーブルの上には、冷めた味噌汁と料理が置かれたままだった。麻也はまだ帰ってきていない。私は、テーブルの上の置き手紙を丸め、ゴミ箱に捨てると、そのまま床に座り込んだ。「ん?」ゴミ箱に何か入っていた気が……。中を覗くと、私が書いた手紙とは別に、もう一枚メモが捨てられていた。見てはいけないと思いつつも、私は、その紙を拾い上げた。「18年前の事件……東向島公園?」
2024年10月16日 13:00
「水晶占いの情報や、新たに創設された宗教団体の情報があれば、送ってほしい」次の日、出勤した僕は、千代の部屋を荒らした犯人を特定するため、朝から仲間と協力して捜査を行っていた。特定の手がかりになりそうな情報を見つけ出し、その情報をもとに現地へ向かい、犯人の足取りを探った。僕は若い頃に多くの軽犯罪を担当している。その頃、関わった事件の中から、関与が疑われるものを片っ端から当たっていくこ
2024年10月15日 13:00
「引っ越しちゃうの? 千代ちゃん」私は、パートを辞めることを伝えに、近所のスーパーに来ていた。「うちのスーパーは、これから万引きGメンがいなくなるね。これまでは、千代ちゃんがうちの万引きGメンだったから。千代ちゃんの勘は、ほんと当たるからね」「だから、私は、万引きGメンでは……」「そういえば、この前、男の人の声で、千代はお休みしますって連絡きたけど、あれ、もしかして彼氏さん?」
2024年10月14日 13:00
僕の前に現れた一人の男性。彼は、神主から紹介してもらった『柳田ハジメ』という霊能者。見た目は、僕より少し若く見える。黒い服にサングラスを掛け、帽子を目深に被ったまま、彼は、呼び出した喫茶店に姿を現した。ハジメは、僕の顔を少し見たあと、何も言わずに席へ座った。人見知りなのだろうか。僕はどう声を掛けていいか分からず、彼に笑顔を振り撒いていた。すると、メニュー表を手に取り、サング
2024年10月11日 13:00
「千代さん!」「はい、分かっています」境内の上空から、黒い煙のようなものが降り注いできた。そのうち、ほとんどの煙は、池へと吸い込まれてはいるが、次第に、池も煙を吸いきれなくなり、千代の周りで渦を巻き始めた。その渦は、千代の心臓へ入り込もうとしている。「これは、人の念です。一体、何が……」千代は、その念を振り払おうと、必死に藻掻いている。しかし、次第に体が沈んでいき、表情が見