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傍聴席のカケラ|第19話|四面楚歌

裁判長の許可を得て、若手の警察官が証言台に立った。

「被害者の花瀬麻也は、18年前に起きた警察官殺害事件を引き継いでいます。殺害されたのは、山村透。当時の捜査記録に、山村弁護士の長男であると記載があるため、弁護人の息子であることは間違いありません」

「では、事件について、詳細を教えてください」

「被害者である山村透は、当時、花瀬麻也の上司でした。もちろん、事件前から面識はあります。そして、事件前日、花瀬麻也は山村透からあるメモを渡されています。こちらをご覧ください」

モニターに、メモの内容が映し出された。

「メモにはこう書かれています。『花瀬はこれ以上、事件には関わるな』と。もともと山村透と花瀬麻也は、常に行動を共にしていました。しかし、事件当日は、山村透が一人で詐欺グループの人間と接触し、殺されています。山村透の指示通り、現場へ行かなかった花瀬麻也は、それを後悔し、18年間、たった一人で事件を追っていたものと思われます。その時の記録が全てこちらに記載されています」

「なるほど。それで、その追っていた詐欺グループの名前は分かったのですか?」

「はい。こちらには、『六花』と書かれています」

ここで、六花と麻也が追っていた団体の名前が一致した。

再び傍聴席がざわつく。

しかし、それでも一切動じない六花。

何なら、少し笑みを浮かべている。

「これについて、証人の水島六花さんに伺います。被害者である花村麻也が追っていた団体の名前とあなたの名前が一致しています。何か心当たりはありますか?」

ゆっくりと証言台へ向かう六花。

そして、彼女は、再び証言台に立った。

「あります」

「なるほど。では、六花という団体について、分かる範囲で構いませんので、お話しいただけますか?」

「はい。六花は、18年前に被告人である千代に潰された宗教団体を受け継いだ団体です。私は、その宗教団体が行っていた活動をもとに、新たに、六花という私の名前を使い、これまで占いの本質を説いてきました」

麻也が一人で捜索していた六花という団体。

その団体名が、私の母親の名前であるとは、麻也も予想していなかっただろう。

「裁判長! これは、彼女が、自分が首謀者だと言っているようなものです!」

山村弁護士は、取り乱さずにはいられなかった。

長年、犯人が見つからず、憎しみをぶつけることすらできずにいた彼にとって、堂々としている六花の態度は、そう簡単に許せるものではなかった。

「静粛に!! まだ彼女が首謀者であると決まったわけではありません。しかし、どちらの事件も繋がりがないとも言い切れない。証人であるあなたは、あくまで当時7歳だった被告人のせいだと仰りたいのですね?」

「そうです。全ては、被告人の千代にあります。ただ、私が彼女を産みさえしなければ、こんな事件はそもそも起きていません。そういった意味では、私にも罪はあるのかもしれません」

「被告人には何かしらの能力があり、それによって、この事件が起きたと?」

「はい」

「なるほど。しかし、あなたも、被告人と同じような能力を持ち合わせているのではないですか?」

「……仰る通りです。ですが、この能力は、千代の暴走を止めるために宿したもの。人を殺めるために使うものではありません」

「それがあなたの言い分ですね。それにしても、なぜ、そこまでして、娘である被告人を陥れる必要があるのでしょうか?」

この裁判長の質問に、なぜか、若手の警察官が手を挙げた。

「裁判長! その質問は、私がお答えしてもよろしいでしょうか?」

「なぜ、あなたが?」

「ここまで行われてきた裁判の中で、最も大事な答えがここに隠されているからです。こちらをご覧ください」

一枚の写真がモニターに映し出された。

「これは?」

「若かりし頃の花村麻也です。彼がまだ20代の頃に撮られたものと思われます。裁判長、彼の隣にいる女性、誰か分かりますか?」

「証人の六花さん……ですか?」

「その通りです」

「なぜ、隣に?」

「私は、彼の母親なので」

「母親? もしかして、被害者の花瀬麻也とあなたは繋がりがあったということですか?」

「もちろん。私の長男ですから」

法廷内が騒然とした。

しかし、私だけは、六花の言葉を疑っていた。

そもそも、麻也と一緒に住んだ記憶もなければ、苗字も違う。もちろん、両親からは一切、そんな話は聞いたことがない。

すると、麻也の家へ初めて入った時のことを思い出した。

「安心してください。この部屋に足を踏み入れたのは、千代さんと私の母だけです。昔、ここで、母と二人で暮らしていました」

まさか、麻也が言っていた母親が、六花のことだったとは。

いや、まだそうと決まったわけではない。

そもそも、なぜ、このタイミングで若手の警察官がこんな発言をしたのか。

きっと六花の嘘を炙り出すために、仕掛けてくれたものに違いない。

「裁判長! つまり、花瀬麻也は、実の兄妹である被告人、水島千世によって殺されたのです!」

傍聴席から悲鳴が上がった。

「証人の六花さんは、10代の時に被害者の花瀬麻也を産み、その後、離婚。数年後に別の男性と再婚し、被告人である水島千代を産んでいます。しかし、彼女はある日、突然姿を消してしまった。その日から、ずっと花村麻也の行方を追っていたんです。そんな中、彼が殺害された。これが事実です!」

私は、言葉を失った。

署で6時間にも及ぶ事情聴取を受けたあの日、ハジメからの手紙を渡してくれた若手の警察官は、当然、私の味方だと思っていた。

しかし、この証言で明らかになったのは、彼が六花の仲間であったということ。

そして、霊視のおかげで、一つ分かったことがある。

この事件と18年前の事件の首謀者は、間違いなく、六花。これは、彼女が現れたときから見えていた。

しかし、若手の警察官については、これまで仲間であると思い込まされていたため、霊視をしてこなかった。

ここに来て、彼の素性が、ようやく見えてきた。

私が外出している間、隙をみて麻也のマンションへ侵入したのは、若手の警察官。

彼は、最初から、私の味方ではなく、六花の味方だった。

何なら、二人はもっと深い関係にある可能性が高い。

若手の警察官は、六花が殺した、麻也とは別の人間の顔を松明で焼き、麻也のマンションへ運び込んだ。

そして、もう一つ見えたことがある。

ハジメは、月出検察官を車で追い、事故に遭った。その後、搬送先の病院で意識を取り戻している。

そこに若手の警察官が現れ、酸素ボンベを外している映像が見えた。

そう、月出検察官、若手の警察官、そして、六花がこの一連の事件の犯人。

しかし、思いもよらぬところから、声が聞こえてきた。

「真相が見えてきましたね」

発言したのは、月出検察官でも若手の警察官でもなく、裁判長だった。
 



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早坂 渚
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