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傍聴席のカケラ|第18話|衝撃
六花は、私と目を合わせることなく、証言台に立った。
「証人。あなたの名前と職業を教えてください」
「水島六花。占い師をしております」
堂々とした口ぶり。そして、不敵な笑み。
心の奥底を悟られないようにするためか、彼女の瞳からは、霊能者特有の物々しさが際立っている。
「水島という苗字ですが、もしかして……」
「はい。私は、被告人である水島千代の母です」
六花は、自ら母親であることを認めた。
彼女の言葉を聞いただけで、再び全身の震えが止まらなくなった。私は、手で必死に足の震えをおさえた。
六花は、感情を全く表に出さず、堂々としている。
しかし、私の脳裏には、彼女の心情が、不気味なほど流れ込んでくる。
六花は、表面上、着物の柄のような華やかな模様の楯で覆われている。目の前には、法廷中に異彩を放ちながら立つ女性の姿が見える。
しかし、彼女の本質は、見た目とは真逆。
まるで、真っ暗闇のジトジトとした洞窟の中にいる、偽りの鱗で覆われた獣を見ているようだった。
どんな人生を歩んできたら、こんな人間になれるのか。
見え隠れする六花の裏側。
そこには、今の人格を作り上げた、険しい表情で水晶術を習う、別人格の六花の姿があった。
「目的を果たすためだったら、私はなんだってする」
己を捨て、歯を食い縛りながら水晶を握る、母の姿が、目の前にいる六花の裏に見え隠れしていた。
何も知らずに見学に来ている傍聴人たちは、予想外の展開に興奮している。まさか六花が私の母親だったとは、誰も予想していなかったのだろう。
マスコミは、最新の状況をいち早く届けようと、法廷を出入りしている。
「裁判長。証人である被告人の母親は、18年前の事件を知っています。六花さん、当時、何があったのか、そして、被告人は18年前の事件に関与しているのか、お聞かせください」
検察官から六花に証言が求められた。
「あれは18年前の出来事です。千代は幼い頃、ある問題を抱えていました。子どもでありながら、強い霊的なものを引き寄せる能力があったのです。それは、私がまだ霊能者と名乗る前のことでした。夫と二人、彼女の親として、この問題に日々悩まされてきました」
「それは、具体的に、どういった内容ですか?」
「突然見えない何かと話し始めたり、私のことを睨みつけてきたり、そうかと思えば、急に笑い出したり、時に泣き出すこともありました。そんな彼女は、私にこう告げたんです。『私は、お母さんを絶対に許さない』と。それから、私は娘が怖くなり、ある霊能者へ相談したのです。すると、次の日、その霊能者の行方が分からくなりました。それだけではありません。その霊能者が所属する団体が、次々と消えていったんです」
「その理由は何だったのですか?」
「分かりません。ただ、その団体が消える直前まで残っていた人は、団体に悪魔の子どもが乗り込んできたと、自分たちを殺しに来たと、言っていました。その時初めて、悪魔の子どもが娘のことだと聞かされたのです。その話をしてくれた方も、その後、失踪しました」
六花は、18年前に私が占いの団体を潰したと、説明した。
「その後、どうなったのですか?」
「私は怖くなり、千代を祓い、清めてもらうことにしたのです。しかし、そこでも、大変なことが起きました。千代が、私たちのもとから逃げ出し、崖から飛び降りたのです。それから、どれだけ捜索しても、娘は見つかりませんでした。そして、その後、事件は起きました。団体を調査していた警察官が殺されたのです。それを聞いて、私も殺されるのではないかと思いました。あれから18年。こんな形で再会することになるとは……」
これは、全て六花の作り話。
私の記憶では、山で黒い服の男から金を受け取り、間違いなく、二人は私の能力を売ろうとしていた。
私は、それから逃れようと、崖から身を投げ、姿を消した。
あたかも18年前の出来事と今回の事件がつながっているように、私を警察官殺しの犯人に仕立て上げるために作られたシナリオ。
山村弁護士が口を開いた。
「裁判官。証人の発言は全て嘘です。私は、この日が来るのをずっと待っていました。いつか犯人が目の前に現れると信じていましたので」
意味深な発言をする山村弁護士。
「六花さん、先ほどあなたが仰った、18年前に団体を追って殺された警察官。それは、私の息子です」
彼は、ポケットから1枚の写真を取り出した。
「息子は、18年前、その団体の事件を担当していました。しかし、息子は何者かに殺され、亡くなった。現在も犯人は見つかっていません。その後、事件は引き継がれましたが、すぐに捜査は打ち切られています。この事件は、間違いなく警察が絡んでいる事件です!」
山村弁護士は、検察官と警察官を睨みつけた。
「そして、当時、事件に関わっていた人物が、この法廷内にいます」
思いもよらぬ展開。
傍聴席がざわつき始めた。
「月出検察官、あなたです。あなたは、18年前、息子の事件に関わり、そして、息子が殺された後、捜査を打ち切った。違いますか?」
母の証言とは全く異なる山村弁護士の証言。
すると、月出検察官が立ち上がった。
「裁判長! この弁護人は、被疑者の無実が危ぶまれているため、このような嘘をついていると思われます」
「なるほど。ですが、弁護人の証言から出た18年前の未解決事件。その時、本当にあなたは捜査に関わっていたのですか? お答えください」
「……確かに、私は、検察官として、捜査に関わっていました」
「なぜ今まで黙っていたのですか?」
「何か隠したいことがあったんじゃないのか! 私の息子が殺された事件を忘れたとは言わせんぞ!」
「静粛に!!」
裁判長が机を叩いた。
「弁護人、落ち着いてください。検察官、今ここで話しておかなければ、余計怪しまれることになります。18年前の警察官殺人事件。そして、捜査が打ち切られた理由。あなたが知りうる限り、ここで証言してください」
警察官だった山村弁護士の息子が殺された18年前の事件。
この事件と今回の事件は、明らかにリンクしている。法廷にいる誰もが、そう見ていた。
誰一人動くことなく静まり返る法廷内。
月出検察官は、俯いたまま、広角を上げた。
「黙秘を続けるおつもりですか? もう一度問います。検察官、このまま証言しなければ、あなたと18年前の未解決事件の関与が疑わることになります。当時の事件について何か話してください」
それでも動こうとしない月出検察官。
すると、隣りに座る若手の警察官が立ち上がった。
分厚い資料を抱え、証言台へと向かう彼。真っ直ぐな眼差しで裁判長を見ながら、こう話した。
「裁判長。ここに被害者である花瀬麻也が、たった一人で集めた捜査資料があります。ここからは、彼の代わりに、私が証言させていただきます」
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![早坂 渚](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168143166/profile_c2e9dbf35cc54996d9a2da7c57423fa6.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)