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実家の自室は、夜になると踏み切りの音が聞こえた。カンカンカン、と遠くに。それから、ゴト…
私たちはある日砂漠に産み落とされた。 昼の灼熱を歩き、夜の寒風に耐える。なぜこの場所にい…
「うわぁ、変な感じ」 駅で隣を歩くひかりが、そう言った。 「まだ若いって証拠じゃん」 背の…
吐きそうなほどの不安が、食道の奥からせり上がるのを感じて、スマホを布団の方へと投げつけた…
朝から湿度の高い空気が手足にまとわりついていた。昼前には空が薄灰の雲に包まれて、ぽつぽつ…
ちいさな狼煙をあげよう。 ここに生きているという、ちいさな狼煙。 たしかにいるという、小…
どこかで、酷い劣等感を抱いている。 なにに、と問われても、言葉は出てこない。 ただ、漠然とした不安や焦燥感。心臓の向こう側から、血流とともに全身へと回ろうとする、目に見えぬ毒。 目に映るものすべてが、自らの矮小さを際立たせる装置に見えて、困る。 常に、卑屈で生きているわけではない。 自分の人生に満足したり、私と言う存在を誇らしく思うことだってある。代替しようのない、唯一無二の自我なのだと。私はここに生きているのだと、強く己の中に打ち立てている時もある。 それでも、ふと、
友よ。 思春期をともに過ごした君よ。 悟り顔で何にもあらがわなかった君よ。 それでも、心…
書くこと、手を動かすこと、文字に落とし込むこと。 書くこと、手の感触や、香りや、温度や湿…
ごあいさつこういう時だから、なにか。 そんな気持ちが、日々身体の節々に張り付いています。 …
和綴じをご存じだろうか。そう、時代劇などで出てくる、あれである。寺子屋で使われている、あ…
ごあいさつ三月ですね。 春って、いい響きだなあと、いつも思います。 新しい環境、新しい場…
「きっとさ、入るアバターをまちがえたんだよね」 コンパルの驚くほど苦いコーヒーを、澄ました顔して飲みながらモトコはそう言った。 「アバター?」 気取って注文したブラックコーヒーは私にはやっぱり苦くって、こっそりフレッシュと砂糖を入れながら聞き返した。そういえば、随分前にそんな題名の映画が流行ったな、見たことないけれど。 「十八年もこの身体に入ってるのにさ、未だにうまく操縦できないもん。ほら」 そう言いながら、彼女は机の下でロングスカートを巻き上げた。骨格標本に皮をかぶせ