すり抜けてゆくモノを今日はそのまま見送ろう飛び出さんばかりに眼を見開き両手の指を思いっ切り広げ威嚇するかのような体勢をとったとて取りこぼすものはあるもしうまく捕まえられてもすべては抱えられないし持ち続けられはしないだから今日はそのまま見送ろういつか受け止められる日が来るだろうから
有ることを知らなければ無いという感覚は存在しない欲しいと思うことも探すことも手に入れるために近づくために努力することすらも有ることは教えられたものなのか知らぬ間に見聞きしたものなのか生まれ持ったものなのかそんなことは今は問題じゃない手には入らないものとの距離をどうやったら保てるか
さっき小さな嘘を一つついた。嘘をつく前の後ろめたさは嘘をついた後の開放感にいとも容易く吸い込まれて見事に分解されて清々しさに変わってしまった。これはたぶん、あれは嘘なんかではなくて私が私を守るための大事な丸い盾であったのだと。あちらもこちらも傷つかないまぁるいまぁるい柔らかな盾。
桜草は桜を妬まないし金平糖は星を貶めようとはしない似てる似てないそればかり似て非なるものに対する感情はすべて我が身を貶める咲くまでの試練が桜にはあるし星がなぜ輝いて見えるのか伏線や裏読みをしなくちゃならない風が吹いている美しいという感情だけで充分生きていける目に耳に入れるのは自分
届かぬ思いを吐き続けるのは何故だろう届けとも願わずに届くものだと信じているかのように切手を貼りさえすれば届けられる葉書にも必ず宛名は必要で世界が閉じていることは深呼吸をし顎を上げ広く見渡さなくては気付けはしないからきっとたぶんそれは自転を継続するための動力として吐き続けているだけ
解けかけた靴紐をぎゅっとまた結び直せば同じようには歩けるかもしれないけれど踵は擦り切れてないかい靴ずれは起こしていないかい小石が入り込んではいないかい雨水が染み込んではこないかいその靴紐はその靴にあったものなのかい長くはないかい短くはないかい靴そのものを取りかえるという手もあるよ
失くしたり奪われたり落としたりしたものなら取り戻すことは可能かもしれないけれど影も形もなかったものを「取り戻す」って言葉に落とし込んで手に入れられたかもしれないっていう仮定の極みを中身が見えないように真綿で包んで誤魔化してるだけ取り戻せるものか新たなものかの判断を今は誤りたくない
欲しい言葉を探し歩いて探しあぐねて蛍の灯よりは少し大きい火種になれば充分で暖まりますか暖まれますか素知らぬ顔で踏みしだかれた音さえさせない殻を拾い集めても煙すら上がらぬままで無駄なことだと思いながら立ち止まるのも悲しくて歩き続けるのも寂しくて蛍の灯にも満たない血豆がほつんと両足に
どれほどの言葉があれば埋まるのだろうか100?200?1000?2000?行き先も持たず彷徨う言葉じゃなく届けと切に願われている言葉尖った矢先を持たずそれでもきちんと飛んでゆくそんな言葉がどれほどあれば肺を大きく膨らませ足を出し両手を交互に振る力が出てくるのだろういったいどれほど
美しそうな言葉を吐く人には気をつけなさいと貴方は言う輝いて見つめられないほどの光は闇を消してしまうから吹き飛ばされてしまうから蕩けた心はもう決して元には戻れないから美しさを決めるのはアナタなのだから美しそうに聴こえる言葉に惑わされないようにしゃんと耳を立てていなさいと貴方は言った
ぽたりと落ちた雫が隣へとまた隣へと無色の水面を伝い緩やかに動き続ける終わりなきかに見える波が岸辺に集うか細き淡い緑の草の群れを揺らしたかにも見え土の中に飲み込まれゆく波は少し湿った柔らかな土に包まれて大きく深呼吸をし緩やかな眠りについて華奢な根と茎を経か細き葉にのぼりまたぽたりと
本音ってなに。本当の音ってこと?広がらず消えることなくすーっと通る音ってこと?タメ口は生意気だと言われ敬語を使えば他人行儀だと言われ。モノにはすべて表があるからこその裏。表は良くて裏は悪いと決めたのは誰?単音ばかりは寂しい。和音で生きればいいじゃないか。楽し悲しもリズムとともに。
捥げるのか落とすのか分からないまま距離を取る翼?羽根?羽毛?ハラハラとパラパラとゆっくりと急速にその身から痛みはあるのか哀しみはあるのか喜びはあるのかそんなことを考える堕ちるのならばその先を堕ちゆく様をどうかどうか見せて落下速度は異なるだろうけれど落ちる地は似てるかもしれないから
コピーが欲しいわけじゃない同じところで笑い泣き怒るだけなら鏡を見ればいいただ頷くだけ寄り添うだけなら今ある影で充分2人分もの影を面倒をみるつもりもないしみれるわけもないそんなことにも気づかないからキミはそこにいられるんだろうボクはコピーを求めているわけじゃないわからないんだろうな
丹念に積み上げられたお城が土台から砕け崩れ飛び散り欠片ひとつも残すことなく霧散し泣き崩れ術もなく立ち尽くし壊れてゆくのを見たいのかもしれない亀裂だらけの飴細工さえ宝石に見えるキミの目踏みしだかれて粉々になる音ですら愛の告白に聞こえるキミが壊れていく様がたぶんこの世で一番美しいはず
光りの鈍さに気が付いて見上げた先に血の気の引いた空がいた泣いたって何も変わらないと言いながら大粒の雨を降らし始める泣けるだけいいじゃないとひたすら涙を受け流す地このまま行く先をなくしたらどうすればいいだろうと血の気の引いた空と地が互いの顔色を窺い合うあの頃とは違うからと言いながら
空がグズグズしてるから窓をゴシゴシ拭いてみた風がガサガサしてるから網戸をガシガシ洗ってみたそれでも空はグズグズで風もなんだかガサガサで空はそのまま空のまま風はそのまま風のまま鏡を磨けば代わるかと音がなるまでキュキュキュッと磨き続けてみたけれど鏡は所詮うそ映す信じるものは何処だろう
流されてゆくだけは指先から冷えていく受け取るばかりに慣れて当たり前になった証爪先でかける量なんてしれているけれどただ流れてゆくよりは指先に触れる藻や背に触れる石の感触ぐらいは感じたい腕を少し開いて掌を少し傾けてたったそれだけで感じるものは違うかもしれない同じ流れの中にいたとしても
聞きたい音がある 湿度80%の日に からからに渇き切った身体に 沁み込んでいってくれそうだから 聞きたい音がある こんな日は こんな時は 聞きたい音がある 風さえも身体をすり抜けていってしまいそうな今日 アナタが楽器なら良かったのに と
見知らぬ誰かが見知らぬ何処かで吐く息を優しさ欲しさに吸い込んで宵からは雨になるよと告げるのは何処の誰でも良いはずで告げる宛など無いはずで消え去るものは『やさしさ』で残れるものは『さびしさ』か誰か教えて『やさしさ』は『まろやか』なのか何もかもを飛び越え得るのか誰か教えて何処の誰でも
あゝもういないのだと飼った覚えもない仔犬がクゥと泣くお前が甘え泣いたところでアタシに餌はやれやしないたとえ姿が見えなくてもたとえ言葉が聞こえなくてもここにはいないというだけできっとどこかで風切ってきっとどこかで走り続けてるはずだからここにはいないそれだけでアタシの仔犬がまた泣いた
暖かい空気は上に上るのどこまでも突き抜ける空は明るいのだとしたらこの感情は冷たくて暗くて辛いものなのだろうか暖かさと温もりは同じようできっと違うの抱えてくれるわけでもなく広がり溜まる暖かさは自らは決して歩み寄ってきてくれないの中空でとどまって包み込んでくれる温もりとはやはり違うの
さぁさぁと降る雨にたぶん巌は砕けないぽつんぽたんと小さめの粒と化せばいいのにと手を取り合っていっときにさぁさぁさぁと堕ちないでそれじゃあ砂さえ動かないそれじゃあ木の葉も動かないぽつんぽたんと堕ちればと時間をかけてゆっくりとか細いままでも堕ちればと音も立てないさぁさぁさぁの絹雨じゃ
何でもない日に何気ない日に鞄の底の飴玉をシフォンのように降る雨を無機質を反射するコンクリートに阻まれて伝えられない熱と醒めゆく熱の中で何でもない日を重ねて何気ない日を今日も何でもない日に何気ない日に新しいパンプスを陽だまりのような花束を枯れた木立に囲まれて湿ったままの羽を背負って
分かってる分かってるよ取り巻く空気や色がほんの少し似てるだけだってことぴったり重なり合えるなんて絵空事だってことも分かってほしい分かってほしくて生きてるわけじゃないからだけどそれもありねって笑ってて欲しいんだそれもありだねと笑ってたいんだ足の小指の爪ぐらいは同じ空気を吸ってるって
肌と肌でぽんぽんぽんとリズムを刻む緩やかに伝わるものと伝えられるもの押し付けじゃなく要求でもなくここにあるものとそこにあるものは繋がり伝え合う何かを持ってる確かなものでそれは温かさとか優しさとかそんな簡単なものじゃなくて安心とか大丈夫とかそれだけで済まされるものでもなくありがとう
優しさの在処を探す旅に出よう北の町にあるとか東の街にあるとか噂はたくさん聞くけれど囁かれる言葉の端々に覗くのはすべて出発点の定まらないものそれらを宛に南に2日西に3日と歩き続ける旅に花が咲き花が散り膨らみゆく実を眺め落ちた実を拾い季節を幾つ巡れば優しさを掴めるかはわからないけれど
五月雨のように静かに音も立てず日々際限なくすぅーとふわふわとすとんとさらっと舞ったり落ちたり彷徨ったり傘で凌ぐ者顔や掌を掲げて浴びる者俯いて巻き肩のまま後頭部や肩甲骨で受ける者覆屋に守られて遠くから眺めるだけの者それは確かに平らかに舞い落ち舞い散り広がり届くのになかなか気づけない
何も残らないのがいい楽しさ嬉しさは過ぎ去った後の空洞をより感じてしまう悲しさや虚しさには始まりや終わりがあるようで無い何も残らないようなその一時の充足感に勝てるものは所詮無いのかもしれない残らないことを残すのが結局は一番難しいということなのか爪跡足跡残した痕もきっといつか風化する
掌で胸で言葉で温めて欲しいと脆く柔い卵を誰しもどこかに隠し持っていて時々ひょこんと殻の尖がった方が顔を出してきたりするここに孵化できないままいますよ気付いてますか温めて下さいなと誰にも聞こえない声で呟くその掌でも胸でもできれば言葉と一緒に温めてくれれば綺麗な鳥になってみせるからと
空が泣いてると辛いとキミが言い薄っぺらな毛布を頭から被る隠れるのだと言って何から隠れるのだろう何を隠すのだろう空は空のままでキミはキミのままで時折もごもごと動くブルーグレーの物体であることには代わりはなく空もキミもボクはそれをただ遠巻きに眺め待つだけ空もキミもただただブルーグレー