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「今時のかき氷はシャリシャリしてないんだって。ふわふわしてるんだって」「へえ」旦那の返事はほぼこの二文字に収束する。もっとなんかないの。じゃあ一緒に食べに行こうかとか。わたしの話、ちゃんと聞いてよ。数日後、宅配便の箱が届いた。「…かき氷機?」「家でもふわふわできるって」聞いてた。

4年前

付き合って初めて訪れた彼女の家は動物のぬいぐるみで溢れていた。「可愛いね」と言ったら「うつくしいんだよ」と訂正された。「今度動物園行く?」と聞いたら「狭いところにいるのを見ると悲しくなるから」と断られた。「野性の観よっか」とアニマルチャンネルを一緒に鑑賞した。動物に詳しくなった。

4年前

行きつけでもない美容室に足を運んだのは、二度と会わない相手なら言えるかと思ったのだ。「おまかせします」と。「要望とかは…」「何も。一切私の意見を入れたくないんです」誰かに壊してほしかった、つまらない私。「…ダメですかね。似合うと思ったんですけど」鏡の中には、いつもの延長線上の私。

4年前

昨日虹を見た。隣の息子はへえ。薄い反応。だけど今朝、寝ぼけ眼で「虹の夢見た」と笑った。虹は橋で渡ったら宝箱をもらえてね、浦島太郎の玉手箱の逆で子どもになる煙が出てきて、僕は子どもだから赤ちゃんになってお母さんのお腹の中まで戻ってまた生まれてきたの、楽しかったよ。雨みたいに泣いた。

4年前

桃農家の幼なじみから桃が届いた。昔はよく手伝ったものだ。高三の夏、茹だるような暑さのなか『ずっと桃もぎろうよ。一緒に』と言われ『いやだ』と答えた。ずこーとやつは項垂れてそれから笑った。わたしは東京の大学に進学した。やつに似ない三人娘のアイコンを押す。『多いわ』『笑』桃は美味しい。

4年前

イルカが高く舞うのを観ていたら、なんだか俺も跳べる気がしたんだ。最近落ち込んでいた様子だったからと水族館に連れて行ったことを完全に後悔した。翌月曜、皆が羨む大企業に辞表を出して、彼は酒蔵の弟子になるのだって。死んだ目のまま側にいてくれたらよかった。知らねえよ、跳べよ。いっちまえ。

4年前

「たとえばさ、タピオカとカエルの卵ってすごい似てるじゃん?」「たとえ話下手すぎじゃない?」「えっ」「普通に気持ち悪くて先聞きたくないわ」「せっかくわかりやすく説明しようとおもったのに」「気持ち悪いことしかわからなかった…で、なんの話?」「俺、おまえのこと友達じゃなくて好きみたい」

5年前

中学二年、初恋だった。見つめるしかできずに終わった——はずが、私たちは出会い恋に落ちた。『夢』の中で。時を重ねて、十年後。同窓会会場ではにかむ彼の左手に指輪を見つけた。その夜、夢の中の彼は私にプロポーズ。「君に出会えなかった人生を想像できない」笑って、起きた。それが私の人生です。

5年前

浮気されていたとおもったら、わたしが浮気相手でした。とても寝つけない夜中、アイツにもらったマグカップを叩き割ってやった。みじめなわたしのちんけな復讐は失敗する。破片を前に涙が止まらない。可愛くてお気に入りだった。毎朝これでコーヒーを飲んだ。代わりなんて誰もなれないはずだったのに。

5年前

朝霧で世界がかすんで見える。このまま自分も溶けてしまえそうな気がした頃に、「早起きなんだな」我に返った。祖父がコーヒーを片手に戸の前で立っている。「べつに」YESでもNOでもない言葉を残して、部屋の中に戻ろうと足を踏み出した瞬間、頭上を大きな鳥が羽ばたいた。「新入りを見に来たな」

5年前

五時を告げるけたたましい音楽が町に流れた。カズの目線が泳いだのに気づき笑った。「帰りたいなら帰れば」「そんなこと一言も言ってないだろ」そうだな、思っただけだ。俺が気づいてしまっただけ。「行くよ」頭の中じゃ警報が鳴り響いているだろうに。「だから……大丈夫だよ」そう言いたいがために。

6年前

前から?OS/機種依存?段階実装?インスタグラムコメント欄に絵文字バー登場!Instagram新機能/最新アップデート2018

振られた。勝率高いとおもって皆に言いふらすんじゃなかった。励まされるとみじめさが増す。二度と学校に行きたくない気持ちで帰り道、後ろから声。「カラオケ行く?」わざわざ追いかけて来てそれかよ。「…行く」誘っといてどれも調子外れな真波の歌。せつなさ満点のサビ、なんか笑える。泣かせろよ。

7年前

「特技…人ごみで、ひとにぶつからずに歩けることですかね」はずれの合コンで出会った、はずれの男。「渋谷でも?」尋ねると、初めて男の瞳に私が映った。「…渋谷でも」解散の合図で晴れ晴れと散る女子の群れから離れ、振り返る。すいすいと人の間をすり抜けて、瞬く間に見えなくなる影を目で追った。

7年前

スカイツリーに勝手に対抗心を燃やした僕らは、その夜さして意味もなく東京タワーにいた。「あそこ全部に人がいると思うと発狂しそう」「なんで。尊いじゃん」星屑のような灯、チカチカ。すべての灯に僕がいて、きっとどこにも僕はいない。「…なんでここにいるのかな僕は」「スカイツリーのせいだろ」

8年前

「…みかん?」武の眉間にしわが寄る。「そうめんにみかんとか…嘘でしょ?」信じられないという視線の先に瑞々しいオレンジ。「うちの地方では入れるの」「それは…酢豚にパイナップル以上の大罪だろう!」「…うっせーな、シチューにご飯盛るくせに…」同棲し始めて数日、私たちの溝は深まるばかり。

8年前

いつまでものろのろと靴紐を結び直してる頭頂部を見てたら、無性にイライラした。そんなの適当にガッと足突っ込めよ。巻き込んだってかかと履きつぶしたっていいじゃん味じゃん。そんな大事にしたって、ただの靴じゃん?「待たせてごめん!」まぶしそうに笑う。なあ、ただの俺じゃん。ほんとバカお前。

8年前

「海見てたら悩みがちっぽけに思えました、とか言うやつの悩みって大したことないよね」「…ディスりに来たの?」終点までわざわざ。「海来て海見ないやつをディスってる。海愛でろと」ざざん、と音。「しかし暑…」瞬間空に咲いた折りたたみ傘。「海にはパラソル!」「…狭」笑うきみばかり見ている。

8年前

毎晩寝る前に日記をつける。明日の。「おはよう」を噛まずに言えた、先生に当てられなかった、マラソン大会は永遠に中止が決定してホッとした、今日は一度も後悔しなかった…。うそうそ、毎日後悔してます。書きながら半分泣いてます。こわいよ、明日が来ちゃう。大丈夫、明日も永遠に中止されました。

8年前

ぶかぶかだった母の形見の指輪が、最近はちょっときつい。誕生日が来るたびこっそりはめてみてた昔、「早く」と「まだ来ないで」の交差点に私はいた。そのときが来たのは16の誕生日で、ちょっとだけ泣いた。その日からこの指輪は私のもの。「太ったかな?」問う私に「大きくなったね」と指輪が笑う。

8年前

どしゃぶりの雨が室外機を鳴らしている。雫の斜線。雨に閉じ込められたみたいだ。突然の着信音が薄い膜を切り裂いた。『花見行くぞ』「今日?」『雨粒にぶつかって散る桜が見たいんだ。30分後に駅集合な』風流なのか悪趣味なのか。窓の外では雨が僕待ち。閉じ込もっていただけ。さあ、濡れる用意を。

8年前

「ご卒業おめでとうございます」「棒読みだな〜」「花束とかいらないですよね?」「いやいやいるよ!なんでいらないの前提なんだよ」「飾られる花がかわいそうかなって…」「花の心配!?」「色紙も回してないです」「えーっ」「卒業するのやめたらどうです?」(((卒業してほしくないんだな…)))

8年前

バス通学、隣に友達未満のクラスメイト。この気まずさよ。「あのさ…姿勢いいよね」この話題、発展性ゼロ。「そう?バレエしてるからかな」意外な答え。「…ちょっと踊ってみて」「えっ、ムリ」だけど翌日彼女の踊りに僕は気づく。手を挙げるとき、窓を閉めるとき、伸びをするとき、そのうつくしさに。

9年前

下駄箱にチョコっぽい箱。ドキドキして開けたらカードに一言「宇宙人より」。一気に気持ちが迷子だよ。結局もらったのはその1個だけ。部屋にてチョコとにらめっこ。いたずら?それとも。差出人を想像した。火星人みたいなシルエット。望遠鏡で「ずっと見てました」とか笑う。遠く遠くの星から、俺を。

8年前

庭先で音。外を覗いた僕らは顔を見合わせる。犬小屋の前で金槌をふるうじいちゃん。「…何してんの」「コロの小屋、雨漏りしとるから」かんかんかん。ついにボケたと目をそらす僕。「コロ死んでるけど?」KYな妹。「知っとるわ!…これでいつでもばあさんと里帰りしに来れるやろ」もうすぐ、三回忌。

9年前

叔父は変わった人だった。子どもの目からもはっきりと親戚から浮いて、妹である母しか味方はいなかった。「あっち忙しそうだぞ、お前の押し付け合いで」隣に黒服の叔父が座る。「どこでも同じだよ」母がいないなら。「そうだな。もうどこでも同じだ」一人ぼっちが二人。「どこでもいいなら、来るか?」

9年前

うちの姉ちゃんは最強で最恐。それが結婚するとかで恋人連れてきたんだけど、そいつといる姉ちゃんは可愛らしくて気色悪い。廊下に呼び出す。「反対。あいつとおると姉ちゃんが死ぬ」「アホ」殴られる。「今まで死んでた私があの人の前でだけ生きれるんや」そんな笑顔知らん、とっとと嫁っちまえ!ぐす

9年前

はーっと息を吐くと白く染まる。「あー寒。もう帰ろーぜ…」振り返るとアキラが小さな足で僕の足跡を追いかけてくるところだった。思い切り足を開いて一歩踏み出す。跳ねるように。背伸びするように。負けないように。追い越すように。視線を感じた。いつかの僕が、この瞬間を遠い未来から覗いている。

9年前

あいつが受かって俺だけ落ちた。合格発表の日から部屋に引きこもってる。メールやら電話やらいっぱい着たけど着拒した。親友なのに親友だから憎くて、それから。コンコン。「おい」あいつの声。「俺頑張ったから胸張って行くぞ」聞いてねーし。「なあ…昨日アメトーク見た?」「…見たよ、ちくしょう」

9年前

タンスをどかすと壁にカビ。「どうしたの?」指差すと彼女は笑う。「ちょうど潮時だったのかもね」次々運び出される僕の荷物、彼女の荷物。行き先はばらばら。「さようなら」なんて正しい別れの挨拶。彼女が去るとカビの生えた僕らの時間と二人きり。目をつむる。ぴかぴかの僕らが笑う声が遠く響いた。

9年前

先月別れた彼氏から漫画を返してもらってないことに気づいた。でも今さら連絡したくない。そうなると余計に読みたくなる…イマイチだった気がするのに。迷った末、全部買った。イマイチだった。悔しすぎて泣けた。私の純情と金返せバカ。「…っていうわけでそのマンガ買わない?」「いらねーわまじで」

9年前

くしゃみのち頭上で笑い声。見ると二度と会いたくなかった顔が手すりを掴んでいる。「相変わらずくしゃみ変だね」一瞬で高校時代に逆戻り、寝取られ事件を経て現在へ。「あの時はごめんね、つい」「ぶっ殺…」怒鳴りかけた声が詰まる。笑うやつには足がない。「ごめん、もう死んでたー」軽っ重っ嘘っ。

9年前

「疲れた…」事務所の席についたところで「店長」と声。「あれ、まだ帰ってなかっ」「本当は、話しかけたくもないんです」モジモジと笹崎さんは続ける。「コンビニの店長とかwwwって感じだし生え際やばいし存在モサいし…だけどあたし…っ」「ごめんなさい」「えっ、店長のくせに振るんですか!?」

9年前

『ちよこれいと』『ぐりこ』『ぱいなつぷる』『ぐりこ』一事が万事そんな感じ。はじめの一歩しか勝てずじまいの双子の兄、俺。『ぱいなつぷる』『…』『ちよこれいと』『…』やめやめ。ぐりこ、とかばかみたい。『…』どうした?『…』一度転んだくらいでひるむなヘタレ。見よ、兄渾身の『…ぐりこ!』

9年前