善也は眼鏡をはずした。踊るのも悪くない。目を閉じ、白い月の光を感じながら善也は踊り始めた。途中でどこかから誰かに見られている気配があった。見たければ見ればいい。神の子どもたちはみな踊るのだ。風が吹き、草の葉を踊らせ、草の歌をことほぎ、そしてやんだ。神様、と口に出して言った。
「ひとつの季節がドアを開けて去り、もうひとつの季節がもうひとつのドアからやってくる。もし言い忘れたことがあるのなら、と彼は言う。いやいいんだ、と人は言う、たいしたことじゃないんだ。風の音だけがあたりを被う。たいしたことじゃない。ひとつの季節が死んだだけだ」
千九七三の秋には、何かしら底意地の悪いものが秘められているようでもあった。古いTシャツ、カット・オフ・ジーンズ、ジータサンダル……、ジェイズ・バーに通い、ジェイを相手に冷えすぎたビールを飲み続けた。5年ぶりに煙草を吸い始め、十五分おきに腕時計を眺めた。【1973年のピンボール】