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晋国の覇業三代。左伝。晋の文公、襄公、悼公の三代では晋国が覇となったとはっきり明文化されています。特に成公十八年の悼公即位の時は身寄りのない老人を恵み、困窮者を救い、税を軽減し、民を農閑期に使うという徳治政治の模範的政策が書かれています。戦争に勝つ事が覇業ではない事が明らかです。

一戦而覇。文之教也。左伝僖公二十七年。この一戦とは城濮の戦いを意味するものだとするようですが城濮の戦いに勝つて覇となったのは文之教があるからだと解するのが自然です。文之教とは民に義、信、禮を教えることであるのは明らかです。仁義無くして武の力のみでは覇とはならないのだと読む可きです

五覇は三王の罪人なり。孟子。小林勝人さんの訳によれば、五人の覇者、諸侯の旗頭は天子の命令も受けず、勝手に味方の諸侯を引連れて他の諸侯を討伐したとあります。三王とは所謂先王の事で、夏の禹王、商の湯王、周の文王だと言われています。先王の王命に背き非道無礼なる罪人だと非難したのでしょう

周王、斉の桓公に命を賜る。左伝荘公二十七年。小倉芳彦さんの訳によれば、この時周王は桓公に覇者の策命を賜ったとしています。しかし、ここにも覇という文字は一言も書かれていません。周王朝の礼制秩序の称号たる候伯の文字もないのです。それどころか斉は異姓の国なので伯舅とするとあるのです。

晋の文公は、覇者と言えるのか?左伝僖公二十八年。城濮の戦いの後、文公は周王より侯伯に任じられました。是を以て野間文史さんなどの専門家は文公が覇者として認められたのだとしますが、疑問があります。そもそも、伯と覇では字が違うので意味も違うと安井息軒も論語の注で言っているからです。

城濮の戦。晋の勝利は武の勝利ではなく文の勝利である。左伝。一戦而覇、文之教也。民に義、信、禮を教化して民力を教化した事、敵の楚王をして文にして礼有り、敵す可からずと言わしめた事、殺意を抱く子玉は剛にして無礼と悪評紛々であった事です。戦闘行為の勝利は国の勝利ではないのです。

楚の子玉の殺意。左伝僖公二十三年。では何故楚は晋と戦う羽目になったのか?それは子玉が文公を殺す可きだと文公の流亡時代から言い続け、城濮の戦いに於いても楚王は天徳のある人と敵対してはならないと言ったにも関わらず兵を動かして王の怒りを買い、少数の兵を与えたられただけだったのです。

楚の成王、晋の文公の徳を賞賛する。左伝僖公二十三年。城濮の戦で晋に敵対したはずの楚王は文公の流亡時代から文にして礼有りと賞賛していました。天将に之を興さんとす。天に違えば大咎有りとして丁重に送ったのです。文公も城濮の戦に於いて楚に贈送の恵有りとしてその恩を忘れなかったのです。

晋国が城濮の戦いで覇となった理由。左伝。僖公二十七年。それは文公が民の軍事徴用に先走りしそうなのを臣下が止めて文の教え即ち、義、信、禮の文徳によって民の安らかな生活を実現したからです。左伝は万民の安らかな生活を主とする王道政治の書です。一人の軍事的英雄を賞賛する書ではないのです。

左伝の書法。敗績を書して勝利とは書かない。戦いの結果、左伝の経文にあるのは、敗績の二文字です。負けたのは何故かを問うのが左伝の書法です。戦勝で安直な英雄主義を鼓舞しないのでしょう。ここに勝利至上主義ではない興亡の理を問いているのでしょう。戦争を美化しないリアリズムに徹しています。

城濮の戦。楚の成王の判断は正しかった。天の味方する礼と徳のある人と敵対してはならないとする予言通り楚は敗績するのです。左伝を読む限り城濮の戦いで晋の文公率いる連合軍が勝利したのは徳と禮のおかげであって武力だけの蛮勇ではないのです。軍事だけで覇を唱えるのは禮徳を無視した覇道政治です

晋の悼公、復た覇となる。左伝成公十八年。悼公は百官に命じて法と礼を遵守させ、六官の長は民の輿望を担った者であり上下の軍律を正したので民の謗言がなかったそうです。是が復た覇となる所以なりと明言しているのです。民心掌握が覇たる所以であり民の政治参加が富国強兵の近道です。

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"世紀末覇者"は実在したのか?

五覇とは誰か?孟子趙岐注によれば斉桓、晋文、秦穆、宋襄、楚荘としてますが何故そうなのかという説明は何もないのです。荀子は王覇篇で斉桓、晋文、楚荘、呉闔閭、越勾践、是皆僻陋の国なるも威は天下を動かし彊は中国を危うくせるは他なしとしてますが所詮戦さに強い地方の頭領に過ぎないレベルです

晋國百数十年乃覇業。左伝僖公十五年。左氏会箋注。秦國が晋國を討ち破って河東の地に進出して来た時秦は覇を図る虎狼の國だとしています。そもそも覇業は一代で成し得ないとするのが左伝の立場でしょう。だから晋の文公は覇者であると明示していないのです。覇國はあっても覇者は存在しないのです。