「この気持ち」に触れた時、体中に、温かい血液が滞りなく巡るのを感じた。心臓が動いていると思った。 生きているのなら心臓は止まっていないはずだけど、止まっていたわけでは無かったはずだけど。 自分の鼓動が聴こえなくなっている時があるから、突然動き出したように思えることがある。
この声は何だろうか。 風に乗って届くより、目印になる遠い灯りでありたいと思う、だから孤独で、それでいい。
美しい沈黙を破ってまで話したことに何も意味が無くたって、美しい朝は行って、そしてまた新しい朝が来る。 同じ朝にずっとはいられないように、ずっと沈黙ではいられない。
流れに逆らう元気が、あるいは勇気があるのなら。 その成果としてしか得られない大事な何かを取りに引き返せばいいだろう。 それよりも、これ一つと思っていた流れの他に、生きた道が見つかるのならそっちを行ってみるのもいい。
この志が、誰かを生かすことがあればいいと思う。 生きる力を持つものには、ちっぽけなものに見えるだろうけど。 構わない。大きな力である必要はない。強くなくていいし、弱くもない。 この心強さを知っている。
とにかく今急いで行きたい時もあるし、急ぎたいわけじゃないのにただ走るのが気持ちよくてそうする時もあるから。 のしのし歩きたい時は、そうするといいよ。 そうするのがいいんだよ。
いつだって僕は、君のためにこんな話をしているつもりもなくて、ただ僕がそっちへ行きたかっただけだ。誘ったわけでもなかったけど、一緒に行くなら、楽しいと思うよ。 突然引き返したり蒸し返したりするかもしれないけど。それでもよければ、一緒に行こうか。
黙っていた方が美しいと思うんだよ。 それなのに僕は、ほんの一瞬朝陽を見て、いつまでも見ていたいと思うのに、朝の方がどうせ先に行ってしまう。
誰かの孤独に反響して、僕がまだ生きていることを、突然、思い出す。 呼吸の仕方を、心臓の動かし方を、忘れてはいないのだということを、思い出す。
火は誰かのささやきか 火は焼き払うような叫びか いつまでも聴こえている いつか聴こえなくなる 聴こえなくなったことに気づかないうちに
この火のそばで暮らすなら、扱いに気をつけなければ。むやみにさわればやけどする。 遠くで信じているだけならば、やわらかい、やさしい光と思っていられる。けれど、正体の分からない火は、いつか見えなくなってしまうのではないかと心配だね。
遠い灯りはべつに、ひとりぼっちじゃないんだよ。 誰かの生活の火だ。 だけど分からない、本当は、遠い誰かの希望のためだけに、ここに灯しておきたいのかもしれない。
かわりに誰か僕を憶えておいてほしい、とは思わない。それは望んで探すと寂しい。 「その瞬間」に出会った時には、これを求めていたのだと分かるほど、強く脈打つ。 同じように孤独を携えた誰かの姿を見れば、自分の孤独を響かせる景色に会えば、鮮やかに、思い出す。
憶えていたいことが他にたくさんあるんだね。 僕が忘れたら、存在ごと無くなってしまうように思えることがあるから、僕は僕を忘れても、孤独の内側にある「それ」を忘れないでいたいんだよ。
こんなことを話して何になるんだろうと思えてくることもあるけどね。 だけどいつも、そんな話でもしてみないとその先に行けないってことを、知っているから僕は諦めなければならない。
あなたにも、あなたにしか掴めない誰かの手があるだろう。 それが僕たちだったとしたら、それも面白いけど、そうじゃなくても構わない。 光が見えるよ。 掴むべき相手に、掴みたいその手に、きっと辿り着けるといいね。
立ち止まってみるのもいいけどね、流れを止めずに緩めてみるよ。 緩めると見えるものがあるし、自分の体が強くなっていることに気づいたりもするから。 だけど急いで来たから出会える景色もあるよ。 どっちでもいいのかもしれないね。
そこにあった沈黙の美しさを、 そこにあった空白の美しさを、 僕が知っているのなら、 誰かが知っているのなら、 僕は諦めなければならない。 永遠を永遠のままにしておくために。
その瞬間があるのなら僕は僕を忘れたりしない。 僕を無くしたりしない。 僕は、僕を、いないことにしない。 いるよ。僕はいなくならない。
同じように、孤独の内側に守っているものがあるのなら、きっとこの意味が分かるだろう。 忘れてしまいたくないものが、こぼしてしまいたくないものが、この手の中に、この胸の中にある。 「僕」を忘れてしまっても、それだけ守っていられたらきっと幸せだろうと思う。
一緒に行こう!見せたい景色があるんよ