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希望のいのり【ショートストーリー】

その日君は再び、今度はクルマで4時間、
彼のアパートを訪ねた。
彼に妊娠を告げるが、
彼からは、自分が心を病んでいると告白される。

思い描いていた未来の絵は
彼の告白によって
はかなく、色褪せてしぼんでしまった。

彼のアパートを飛び出し、
どこをどう帰ってきたかわからない状態で、
それでも、繰り返し彼と過ごした楽しい時間がよみがえる。

彼との生活を覆う暗い影が差した。
君は一緒になることを迷った。
しかし、
彼と一緒になりたいという思い、
おなかの子どもと彼と、
三人での生活への期待は強かった。

ついに君は、彼とともに暮らすことで
彼を癒すことができるのではと考えた。
次第にそれは確信に変わり、
彼を立ち直させるためにも、一緒になろうと決意させた。

何よりも、君自身が
一緒に居てくれる人が
欲しかったからだ。

彼と居たら楽しかった。
理由は、それだけだった。

生活力があるとか、人柄がどうだとか
そんなことより
一緒にいることが
心地良い人だったから。

家族には反対されたが
反対されるほどに君の
決意は強まった。

普段の彼は何も尋ねず、
君に優しいだけだった。

君は彼を
君の唯一無二の理解者と思い込んで、
彼のふるまいすべて受け入れた。

君が彼に望むのも優しさ、
ともに過ごす安らぎなのに、
彼は、何かから逃げるため、
その何かと闘うように君を抱く。
それでも君は彼を信じ、十年もの間耐え、受け入れ続けたた。

彼を受け入れることでいつか、
その何かから逃げ切った彼が、
他の誰でもない、君そのものの心を見つめてくれると信じたから、
彼を支え続ける事を
自らの使命だと考えて。

確かに、それが出来たのは、君だけだったから。
家族ですら見放した彼を、
他の誰が救えるというのか、
君はかたくなに思い続けた。

彼が荒れるほどに君は
自分の至らなさを責め、
君の大切な人たちが君に掛ける心配の声にかえって
君が君自身を責めるように
責められると感じてきた。

きみは勘違いしている。


君が初めて彼を拒んだとき
彼は裏切るのかとなじった。
その言葉に耐えられず君は、
求められればすべて許し、
君自身の尊厳さえも棄て、
彼に与え続けた。

彼は、自分を守る手段として
ズルさを身につけていた。

彼は自分の弱さを君にさらけ出し、
君に、自分以外に彼を受け止める者はいないと思い込ませ、君を離さなかった。

彼は巧妙にきみの優しさを利用している。


狂ったかのようにふるまうかと思うと、またもとのやさしさの仮面をかぶり君に
砕け散りそうなくらい自分を卑下し、おこないを悔やみ、
許しを請う。
そうすれば君が、
ずっとそばに居てくれると分かってそうしていた。

君はそんな彼を慰める。
慰められるべきは、君なのに。

そうやって彼は君が、我が物だと確認し、安心する。

彼は捨てられて当然のことをしてきた。


もう、我慢することはない。

自分を大事にすることを
忘れてしまった君。

それでは、君だけでなく、
君が大切に思う人たちのしあわせまで奪っているよ。

わたしはわたし。きみはきみ。


君は彼のために生きるべきではない。
君は誰かのためだけに生きるべきではない。
君は君だけのために生きれば良い。

わたしは君に、しあわせになって欲しい。

しあわせは君が感じるものだ。
でも、わたしは
君のしあわせを手伝いたい。

君が一緒に歩く人として


彼を選ぶのなら、
それは君が決ることだから、
わたしは君を求めない。

しかし、来世では、
彼より先に君に出会って、
君と一緒に歩きたい。
それは、わたしの願い。

君がわたしと歩くなら、それは君自身の願い。

ふたりの願いが同じなら、
かならずしあわせが続くだろう。

ふたりの願いが違うなら、別れれば良い。


君は彼といることを願うのか。
それは思い込みではないのか。

わたしは君に選ばれたい。
わたしを選んで、彼を棄てなさい。
これからはわたしと歩いて行こう。

きっと、君は、
しあわせをとりもどせるから。

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カエル少尉
サポート、ありがとうございます。もっと勉強して、少しでもお役に立てる記事を送りたいと考えております。今後ともよろしくお願いいたします。