238.この小説は、時間が渦を巻いている。伏線を張って、シナリオを回収して、謎の答え合わせをしている。そして今はもう存在しない多神教の信仰観に基づいて、自らの運命を委ねる。予定調和をこう描くとは。特に7巻、8巻は圧巻で一気に読めた。小説を書く者のなら、この技法は学ぶべきだろう。
237.ヘリオドロス『エチオピア物語』下田立行訳岩波文庫。ヘリオドロスは、ローマ時代のギリシャ人で三世紀の人。キリスト教が席巻する前の古典古代最後の大河小説。現代人が考える近代小説と変わらない。構想の壮大さが目を惹くが、ギリシャ人がギリシャ人であった最後の証明か。これは面白い。