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感覚統合 -感覚の過剰反応・過小反応と運動の不器用さ-


感覚統合は、個人が自身の身体と環境からの感覚刺激を整理し、効率的に身体を使用するための神経学的プロセスです。今回は、感覚統合の重要性と、特に発達障害児の学習や行動に与える影響について、京都大学大学院・加藤寿宏先生が「発達(ミネルヴァ書房)」に執筆された「発達障害児に対する作業療法 -感覚統合からみた自閉スペクトラム症児の感覚・運動-(2018年155号p.62)」という記事の要約を中心にみていきます。

感覚統合とは

エアーズは、子どもの読み書きや計算などの学習障害の原因と治療に関心を持ち、特に視知覚障害(特に視覚ー運動)に着目しました。従来の画一的な学習活動や環境調整への疑問から、感覚統合の発達モデルを提案しました。このモデルでは、行動や学習といった高次脳機能の発達が、感覚ー感覚入力の統合ー知覚ー認知というプロセスを経て形成されるとされています。前庭感覚、触覚、固有受容感覚などの基本的な感覚が、集中力や自己肯定感、教科学習能力などの最終的な機能と関連していると説明されています。

例えば、教室で黒板の文字を写す活動では、姿勢の保持、眼球運動、視知覚、目と手の協調などの多くの感覚運動機能が必要です。エアーズは、これらの行動や学習の問題を感覚統合の観点から支援することを提唱しました。このアプローチは、発達障害児の支援において、その行動や学習の問題を根本的に理解し、効果的な支援を提供するための重要な視点を提供します。

加藤先生は、ASD児の多くは、感覚統合に問題があると指摘し、感覚の過剰反応や過小反応と運動の不器用さ(身体の協調運動の難しさ)を取り上げ解説しています。

感覚の過剰反応や過小反応

感覚の過剰反応や過小反応は、ASDのさまざまな情動や行動特性と関連があり、特に不安障害や睡眠障害との関連が指摘されています。ASD児・者の約半数は不安障害を抱えており、強い不安を感じる人は感覚刺激に対して強い過剰反応を示す傾向があります。また、睡眠障害は行動の問題や生活の質(QOL)の低下とも関連しています。

幼稚園や学校などの集団生活環境では、様々な感覚刺激が入り込むため、SPD(感覚処理障害)に関連する不適応行動が現れやすいとされています。特に、感覚刺激を求める行動(感覚探求)は、感覚の過小反応に含まれ、学校での学習到達度や不注意に影響を与える可能性があります。

感覚の問題は、ASD児・者の日常生活や学習、社会的交流に大きな影響を及ぼすため、適切な理解と支援が重要です。感覚の過剰反応や過小反応に対する理解を深めることで、ASD児・者のQOLの向上や、学習や社会生活への適応を支援することができるでしょう。

運動の不器用さ

運動の不器用さは子どもの発達に深刻な影響を及ぼします。日常生活、遊び、学習などの基本的な活動に加えて、子どもたちの社会的、感情的な側面にも影響するのです。特に、不器用さは他者から目立ちやすく、子ども自身も自分の不器用さを自覚しやすいため、いじめや不安などの問題を引き起こす可能性があります。

具体的に、不器用さはどのような形で現れるのでしょうか。JPAN感覚処理・行為機能検査を用いた研究では、発達障害児の不器用さを

  1. 姿勢とバランス

  2. 筆記具操作

  3. ボディイメージ

  4. 身体の左右の協調

  5. 視覚構成

の5つに分類されています。これらは、発達障害のある子どもたちが直面する一般的な問題です。

特に、姿勢とバランスの問題では、子どもが重力に抗して適切な姿勢を保つことが難しいため、日常生活での様々な活動が困難になります。また、ボディイメージに関しては、自身の身体の大きさや動かし方についての認識が不明確であり、これが運動の不器用さや新しい動作の習得の難しさにつながっています。

これらの問題は、ASD(自閉症スペクトラム障害)児に特に顕著です。ASD児は抗重力姿勢の維持や模倣する動作において、特に困難を抱えており、これは彼らのミラーニューロンの活動に影響を与える可能性があります。ミラーニューロンは他者の運動を観察する際に活動する神経細胞で、これが上手く働かないと、他者の行動を模倣し理解することが難しくなります。

まとめ

このように、感覚に関する問題は、単なる物理的な問題にとどまらず、子どもの社会性や学習、感情面にも深刻な影響を及ぼすことがわかります。そのため、放課後等デイサービスなどにおいて発達障害を持つ子どもたちを支援する際には、これらの側面にも注目し、彼らのニーズに応じた適切なサポートを提供することが重要だと考えられます。

加藤先生は記事の中で、感覚に関する問題に対する療法として、感覚統合療法を主とした作業療法に触れていますが、これに関しては別の記事でご紹介したいと思います。

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