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【劇評169】 猿之助、七之助の万事派手な「吉野山」。藝と笑いの「源氏店」は、幸四郎の戦略に貫かれていた。

 社交の場でもなければ、消閑の場でもない。舞台と観客席が、真摯に向かい合う歌舞伎座となった。
 
 唄も三味線も鳴り物も黒いマスクを付けている。まるでアラビアンナイトの盗賊團といったら叱られるだろうか。
 このマスクが来月も続くようであれば、立唄や立三味線は、さりげなく家の紋が入った特製をぜひ付けていただきたい。遊び心があれば、舞台はいよいよ楽しくなる。

 第三部は、『義経千本桜』の「吉野山」。清元の地。猿之助の源九郎狐に七之助の静御前。猿弥の逸見藤太という充実の配役で、おもしろく観た。

 七之助は花道の出からジワがくる。市松模様に座る席を抜いた劇場でジワがくるのは格別のこと。猿之助はスッポンから迫り上がるが、人でもなく、狐でもなく、雄の匂いが濃厚に漂う。

 ふたりは、あせらず、急がず、のどかな春の気分を漂わせる。進境著しい二人の顔合わせである。
 女雛男雛で決まるところも、猿之助がすっと入って、さりげなくのびて、決まる。主従であることを踏まえ、見せ方をよく心得ている。

 竹本が加わって、いくさ物語へと進む。重く始まり、やがて合戦の描写に入り込み、扇を口に決まる。芸容の大きさが感じられる。

 猿弥の藤太も当代一と呼びたくなる。柔らかな鞠のような身体が舞台を明るくした。
 
 源九郎狐の引っ込みは、沢潟屋らしい派手なやりかたで、髪をさばき、白地に宝珠の衣裳にぶっかえり狐六法を見せる。
万事、観客本意の猿之助らしい一幕となった。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。