「200字の書評」(302) 2021.9.10
おはようございます。
白露が過ぎました。秋気が満ちて露が下りる頃です。秋雨前線の影響で肌寒い日が続きました。もし晴れ渡れば、澄み切った大空には秋の雲が流れていることでしょう。コロナウイルスは変異を繰り返し、終息どころか人間世界に定着しそうです。その強烈さは某先進国の政府を吹き飛ばすほどです。
いつもの散歩道、田んぼでは刈り入れが始まっていました。綺麗にそろった切り株の上を、風がさやかにわたっていきます。収穫の秋、天候不順の影響が案じられます。
さて、今回の書評はこの社会について考えてみました。
宇野重規「民主主義とは何か」岩波新書 2020年
民主主義とは何と不完全で偽善的な政体であろうか。投票によって選ばれた代表者がいとも簡単に独裁者に変貌し、全体主義化した例は枚挙にいとまない。学校では民主主義の歴史を縷々教えてくれた。本書は古代ギリシャの哲人達から、トクヴィルなどに至る系譜を分りやすく記述し、政治思想史として読むこともできる。改めて歴史に立ち返り、先達の論を噛みしめる機会になりそうだ。民主主義に変わる仕組みを創造できるだろうか。
【長月雑感】
▼ 真夏の夜の夢の如く世間を騒がせたオリパラがようやく終わりました。コロナ禍を深刻化させ、莫大な費用負担を国民に強い、商業主義に毒され、スポーツ界と政治の醜悪な野合を見せつけられました。新聞に興味深い記事を発見しました。オリンピックの年に首相は退陣するというジンクスがある。1964年の東京オリンピックでは池田勇人が、1972年の札幌では佐藤栄作が、1998年の長野では橋本龍太郎が退陣しました。そしてつい先日スカ首相の運命のロウソクが吹き消されました。祭りの後の寂しさが漂うと報じていました。
▼ その余韻が漂う中で、政界では生臭い暗闘が展開されています。スカ首相の存在感が薄まる一方で、次期総裁レースが過熱しています。彼のままでは総選挙に負けると危機感を募らせ、森首相の後の小泉首相誕生のフイーバー再現を期待しているのです。メディアは連日トップニュースに取り上げ、岸田が先に手を挙げた、河野が麻生と会談した、石破は出ないのか、高市が安倍の後ろ盾を得たなどと一政党の党首選挙を声高に伝えています。野党はすっかり埋没気味、自公過半数割れの可能性もあったのに、そんなことは無かったかのようです。メディア操作に熟達した自民党は流石であると思う一方、それに惑わされる国民の意識レベルを感じてしまいます。
▼ 経済評論家の内橋克人さん、歴史家の色川大吉さんの逝去が報じられました。誠実で現実社会と向き合う学究でした。昔読んだ「匠の時代」、「ある昭和史」などが思い出されます。
<今週の本棚>
半藤末利子「硝子戸のうちそと」講談社 2021年
著者は文豪夏目漱石の孫で、歴史探偵半藤一利の連れ合い。文才は遺伝するのだ、と思わせる。漱石のDVも妻鏡子の浪費壁なども綴られ、やはり孫ならではの観察である。
呉明益「複眼人」KADOKAWA 2021年
読み進めるには忍耐と複眼的な視点が求められそう。プラスチックが環境に及ぼす負荷が語られ、それへの対処が迫られている。著者は幾つかの物語を縦横に組み合わせて、自然への畏敬を失った人間の傲慢さと自然からの復讐を教えてくれる。海で形成された巨大なプラスチックごみの島は、陸地に押し寄せる。事前に知りながら有効な手を打てぬ政治と科学の無力さに、読者は嘆く。読み方によってはファンタジー風だが、複眼人などの寓意が読み切れなかった。
朝晩はかなり涼しくなりました。そろそろ生活スタイルも服装も秋仕様にしなければなりませんね。
コロナに負けず、政治の目くらましに惑わされず、教養を磨き学びつながる姿勢を忘れず、自分らしく生きていきましょう。