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「200字の書評」(312) 2022.2.10
お早うございます。雪が降ってきました。雪に弱い首都圏、乗り切れるか?
2月です。節分、立春と暦の上で、その季節のしおりが挟まってきます。七十二候は1年をほぼ5日ごとに区切っています。その表現がなんとも文学的で、微笑ましいものです。
寒さは厳しくなるばかりですが、梅と水仙の蕾のふくらみは何となく春への希望が湧いてきます。この身に凍みる寒さを北海道弁では「シバレル」と言います。「いやぁー、今朝のシバレは半端でないべや」と使います。今年の気温は、昨年よりも低いような気がします。ガソリン、灯油などが高騰しています。庶民の懐には、冷風が吹き込んでいます。
さて、今回の書評は北方領土返還要求に関する政治の動きについてです。日ロ交渉は頓挫しています。北海道人にとっては身近な問題です。子どもの頃、北方海域で日本漁船がソ連監視艇に拿捕されたとか、銃撃されたとか報じられるたびに怒りを覚えたものでした。機会があれば、納沙布岬を訪れてください。もう10年くらい前でしょうか。久しぶりに根室に行った際、晴天の海峡は波静か。小さな漁船が操業していました。その沖を海保の高速巡視船が、白い航跡を引いて過ぎていくのが印象的でした。平和であることを願ったものでした。
北海道新聞社編「消えた『四島返還』 安倍政権 日ロ交渉2800日を追う」北海道新聞社 2021年
ロシアには北方領土返還の意思はない。戦争で回復し、獲得した領土である。それが鮮明になった。冷徹で、巧みな外交術に翻弄される日本。一方には宗主国アメリカの目が光る。曲者プーチンに幻惑される安倍首相は功名心に逸り、すり寄って4島返還が2島になり原則が曖昧になる。政権の無定見により旧島民の切実な願いは届かず、拉致被害者家族と同じ構図である。地元紙らしく旧島民に向ける目は暖かく、粘り強い取材が光る。
【如月雑感】
▼ 今月2日、後期高齢者の仲間入りをしました。口の悪い人は「後期」ではない「末期」だ言います。母は存命中「後期高齢者なんて、失礼な」と憤っていました。確かに、時代を支えてきてここまで生き抜いてきた人には、どうも受け入れにくい区分です。しかし、と思い直します。後期はどんづまりなのだろうか。待てよ、確か縄文の時代区分には後期に続く設定があったはずだ。記憶をもとに年表を繰ります。旧石器時代に続き縄文時代が始まる。草創期、早期、前期、中期、後期、晩期と6区分される。やはり後期の後には晩期があった。少し気持ちが明るくなりました。もうひと頑張りしなくてはと思いつつ、若い人の邪魔をせずひっそりとすべきとも思う昨今です。
▼ 冬季五輪の報道で持ちきりです。テレビもラジオも五輪優先。いつもの番組とは出会えません。習近平とバッハが会ったとか、女子テニス選手の健在が確認されたとか、コロナを抑え込んでいるとか、平和の祭典が最高の政治舞台になっているように見受けられます。日本選手の精進の成果が発揮されて、好成績を記録するのは素直に嬉しいことです。「でも?」と思うのです。国際政治の駆け引きの舞台になったり、バッハら五輪貴族の顕示欲を満たしたり、国威発揚の道具になったりしているのでは、拍手が控えめになります。
▼ 石原慎太郎が死去しました。死んだ人はみな良い人になるのでしょうか。普段辛口の論者たちも賛辞を惜しまぬようです。死者にムチ打たないのが礼儀ではあるものの、正当な批判はすべきではありませんか。芥川賞作家の名声と一族の毛並みの良さを背景に、右派政治家として屹立した存在でした。差別発言を繰り返し、肯定的には評価しがたい人物です。特に、言葉を大切にすべき作家のはずなのに、粗暴で品のない言葉と態度を取り続けました。それが今日の国会の場などでの、下品極まりない言説が横行するもとになっているように思います。
<今週の本棚>
東理夫「アメリカのありふれた町で」天夢人 2021年
昔「ルート66」というテレビ映画がありました。2人の青年がスポーツカーを駆り、アメリカ中西部の国道66号線を旅する。その先々で事件に巻き込まれたり、住民と心通わせたりするシリーズでした。丁度高校生の頃で、こんな旅をしてみたいと夢見たものでした。それを思い出させる、平凡でありながらいかにもアメリカらしさを感じさせてくれます。著者は実際に車でらしさを求めて走る。伝説と現実が交差するその風土の描写が興味深く、西部劇の主役であるカウボーイには白人は少なく、黒人とメキシコ系が多数であったことを知りました。後半のビリー・ザ・キッドを追う旅は、チョットした推理小説になっています。反米のくせに西部劇ファンの私には、目からウロコ!の楽しい本でした。過去の栄華と白人の誇りを胸に、落日の大地に生きる人々は、トランプ現象の貯水池なのかもしれません。
半藤一利「もう一つの『幕末史』」三笠書房 2015年
江戸っ子らしい反骨心がにじみ出ています。明治維新は維新の名にふさわしかったのか、意図的に唱えられたのではないかと謎解きをする。西郷隆盛と勝海舟の江戸開城をめぐる会談の実際、坂本龍馬暗殺の仕掛け人はなどなど。さらに戊辰戦争はする必然性のない戦であり、薩長の専横であったなどなど興味深い。特に、批判されがちな勝海舟の評価について異を唱えるあたりは、薩長史観に抗する如何にも半藤らしさがにじみ出ています。
3度目のワクチン接種は4日に済ませました。全体の接種率は低迷したまま、皆さんお気を付けください。それにしてもこの2年間のコロナ禍から、何も学ばなかったのでしょうか。どうぞ最大限の自衛をして、逆境を乗り切ってください。関東各地には大雪の予報が出ています。備えを確実にしておきましょう。