「200字の書評」(357) 2024.2.10
寒風の中に咲く紅白の梅を見る時、春の足音がは近づいているような気がします。
でも、能登半島地震の被災者の心身には寒気のみが沁みているのかもしれません。元旦夕刻、災害からすでにひと月以上、支援の手が行き届いて生活再建の道が見えた人はどのくらいいるのでしょう。心に冷えが忍び込んできます。
前回の番号表示を間違えてしまいました。正しくは(356)でした。その埋め合わせに10日号を送ります。
さて、今回の書評は地球の悠久の歩みを探っています。
尾上哲治「大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変」講談社ブルーバックス 2023年
悠久の地球の歴史では、生物の種は5度大量絶滅している。著者は約2億150万年前の三畳紀における大量絶滅の痕跡を求め、その原因と経緯を追う。イタリア人研究者と協働し深海に潜り山野を跋渉し、地質からその秘密を見いだそうとする。地球の変化が生命活動に与える影響を探り続けている。6度目の大量絶滅期突入説もあるが、果たして人類は生き残れるのだろうか。冒険小説、推理小説を読むかのような展開に引き込まれる。
<今週の本棚>
松本典久「夜行列車盛衰記」平凡社新書 2023年
石川さゆりの「津軽海峡冬景色」、井沢八郎の「ああ上野駅」いずれも夜汽車が似合う。北に向かう夜行列車、夜汽車には郷愁と哀感が漂う。堅い座席で遠くの灯を見つめ、踏切警報音の変化を聴きながら眠れぬ夜を過ごす。新幹線が全国を結ぶ現代では、夜行列車と言う言葉はもはや死語かもしれない。地方出身者にとって夜行列車は印象的な存在だった。1950年代から70年代にかけて青春時代を過ごした者は上京するには夜行列車が交通手段であり、期待と不安が綯い交ぜになり思い出が染みついている。東京までは2泊3日の汽車の旅だった。本書で紹介される夜行列車の愛称に、青春が蘇る。本書で古い時刻表に示されている道内を走る急行「まりも」「狩勝」「すずらん」、青森からの急行「十和田」「八甲田」、少し後の寝台特急「はくつる」「ゆうづる」など懐かしい。後年ブルートレインブームもあった。今や「サンライズ出雲・瀬戸」くらいしか残っていない。
堀内洋助写真集「国鉄最後のSL」東京新聞 2023年
SLと言うよりも、蒸気機関車がふさわしい。逞しく躍動感があり、それでいて急坂では息を切らすかのように脈動する。列車の先頭に立つ蒸気機関車はまるで生き物の様な息吹を感じさせる。石炭を満載した長大な貨車を牽く姿はまさに力走。日本近代化のエネルギー源であった石炭は、時代の変化で悪者視される歴史の皮肉。風光明媚な湖畔をかすめる姿は絵になる。貴重な写真に消え去るものの悲哀が滲む。
【如月雑感】
▼ 都合の悪いことは忘れる。立法を職務とする国会議員が不当な利得である裏金に蓋をする。税法に明らかに違反しているのだが、恬として恥じない。選良であるはずの彼ら彼女らには法の支配が及ばないのだろうか。一般国民には厳然たる態度で臨む検察、税務署も見逃すのだろうか。この国の規範は何処に。
▼ ガザのジェノサイドは止まらない。これぞパレスチナ人の大量絶滅ではないのか。絶対的被害者としての過剰なメンタリティーで、圧倒的な軍事力を行使するイスラエルの思い上がり。それを座視する欧米諸国。偽善である。ウクライナ戦争もすでに2年。停戦への道は遼遠なのだろうか。仲介の労を取るべき公正な国はあるのか?平和憲法を持つ我が国は、いつまでアメリカに従うのだろう。
☆徘徊老人日誌☆
2月某日 誕生日、喜寿を迎えた。そんなに生きてきたのだろうか。年齢にふさわしい人格を形成しているとは言い難い。青年の時期には老人の自分など想像すらできなかった。人生には何度か曲がり角があった。曲がり損ねたり、隘路に行き詰まったり、見逃したりしてきたような気がする。人はいつも何かを忘れているようだ、と先人が言っていた。何を忘れてきたのだろうか。また考えなくては。
2月某日 雪が強まる。首都高は通行止め、各地で交通障害が発生し渋滞になっている。雪に弱い首都圏がまたも現出。北国の友人と電話で笑う。「10センチ足らずの雪で止まっていたら、こちらでは暮らせない」と。自然の力には敵わない迄も、冬タイヤに履き替えるとかチェーンを携行するとか備えをするのが本来だ。甘すぎる。
2月某日 相続の関係で何度か市役所に足を運んで驚いた(辞めた職場には足を踏み入れないことがポリシーだったのだが、已むおえない)。戸籍住民票などの交付窓口は委託だという。公共施設の多くが指定管理になっている。このことの是非は今は言うまい。だが、いざという時委託職員で対応できるのだろうか。災害対応などは特に気になる。能登半島地震の対応にあたる自治体職員は疲弊している。絶対数が少ないのだ。非常時にはとにかく責任ある判断と行動のできる練達の職員がいなくてはならない。新自由主義による公務員バッシングが行き過ぎて、職員定数減を過剰なまでに推し進めている。繰り返しになるが、いざという時には数がいなくては勝負にならないのだ。
2月某日 友人から「明日退院する」と弾んだ声で電話があった。こちらの心に安心が広がる。この齢になると友人知人はいつの間にか少なくなってしまい、健康不安が話題になる。貴重な友人の健康回復と安寧を、泉下の客となった友人に祈る。
雪はほぼ消えました。低温と降雪は被災地にとっては辛すぎます。「春よ来い、早く来い」ですね。梅が綻び始めています。福寿草は見られるでしょうか。
どうぞご健勝でお過ごしください。
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