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「200字の書評」(326) 2022.9.10



こんにちは。

いつの間にか秋が忍び寄っています。散歩をしていると、それを実感します。緑の葉が背伸びをし、カエルの隠れ家になっていた田圃では、稲穂が重く垂れて黄金の波になってきました。刈り入れは間近です。
世界的な異常気象とウクライナ戦争による食料不足が現実化しています。食料自給率は僅か37%の我が国では、輸入が止まると途端に食べ物が足りなくなりそうです。アベノミクスなる失政により、急速な円安も重なり輸入は必ずしも楽観はできません。牛、豚、鶏などの飼料も大半は外国からの輸入です。物価値上げはラッシュです。これまた危うしです。豊富な銘柄で美味な米を、もっともっと大切にしなければなりませんね。農家が意欲をもって生産に取り組める、補償制度を含めた農業政策が求められます。迷走台風が稲穂をなぎ倒さんことを願う。

さて、今回の書評は歴史を振り返ってみました。




増田剛「ヒトラーに傾倒した男―A級戦犯・大島浩の告白」論創社 2022年

空気に流され、展望なしに戦争に突入し国民、兵士、アジア諸国民に惨禍を及ぼした。誰も責任を認めようとしない。その空気を醸成した一人が陸軍出身の駐独大使大島浩であった。ナチスに心酔しヒトラーらと親密になる。欧州戦線でのナチス優勢の情報を本国に送り続け、日独伊三国同盟締結を強力に推進した。晩年研究者に語った記録により、当時の空気と大島自身の罪、軍部の愚かしさが浮き彫りになる。現代への警鐘でもある。




【長月雑感】


▼ また幼い子供の命が軽んじられました。幼稚園での出来事です。静岡県牧之原での3歳児死亡事件。またか!との思いです。保護し慈しむべき大人の責任であることは明白。基本的原則的な確認を着実にこなさなければなりません。馴れと思い込みが悲劇を招きます。幼稚園経営が、安易な利益優先の体制になってはいなかったのでしょうか。富山沖では行方不明になっていた、2歳児の遺体が発見された由。いずれの出来事も、親と親族の深い悲しみを思います。子どもを育て、子どもの未来を明るくする責務は社会にあります。社会の思いやり欠如を嘆きつつ、教育予算と教育政策、そして教育思想の貧困に心痛みます。


▼ 前回の東京五輪は、高校3年生でした。素直に日本選手の活躍を喜んでいました。今や五輪は利権と欲望、自己顕示の渦巻くるつぼと化してしまいました。商業五輪のうさん臭さと、肥大化した自己意識に包まれた五輪貴族たちの金儲けの場でしょうか。これでも札幌は冬季五輪に手を上げるのですか?疑惑はさらに拡大するのでしょうか。角川書店は堅実で精選された出版物が多く、安心して手に取れました。角川春樹の時代、横溝正史の小説と映画を組み合わせた手法により、イメージチェンジを果たしました。何となく違和感を持っていましたが、KADOKAWAになってからは、体質が別な企業になってしまいました。残念です。森元首相も検察に呼ばれたとの報道。いつまで彼のような旧弊を体現する権力志向の人間が居座るのでしょうか。利権構造と体育会的体質には親和性があります。彼の銅像を建てる計画があるとか。論外です。


▼ ウクライナ戦争、先が見通せません。米ロ代理戦争の様相は明らかになっています。翻弄されるウクライナの民、石油天然ガス不足に直面する各国、しわ寄せは常に弱き者のところに集中します。原発の危機も迫っています。一日も早い停戦を望みます。


▼ まるで梅雨のような9月です。二百十日の教えの通り台風が接近する時期です。そのせいもあって、日照時間が短くなっています。日の出は遅くなり、日の入りは早くなっています。つるべ落としの何とやら、いつもの散歩道に芒が伸び始めてきました。草に覆われ荒廃つつある空き家と、畑を整地して小綺麗な建売住宅の立ち並ぶ風景に、無常を感じて歩く毎日です。


▼ 新書の分野では集英社新書に注目しています。漫画が主流で比較的柔らかめの出版社のイメージです。それが新書ではかなり硬派で、足元がしっかりしている感じです。編集者の力量でしょうか。ウェブサイトの「集英社新書プラス」が面白く、著者識者の対談は刺激的でお薦めです。是非覗いてみてください。


▼ 在位70年、存在感抜群の英国エリザベス女王が亡くなりました。国葬が執り行われます。これぞ本物の国葬として頷けます。一方のアベ国葬は格落ちの疑惑まみれ、国葬ならぬ酷喪になりかねません。




<今週の本棚>


野村泰紀「なぜ宇宙は存在するのか」講談社ブルーバックス 2022年

宇宙の実体はどこまで解明されているのか。宇宙の果てはあるのか。ビッグバン以前はどうなっていたのか。これらの疑問に、現在到達している研究の成果を分りやすく(と言っても、文系人間にはかなりの苦労だが)説明している。理論的には次元は10もしくはそれ以上存在するという。宇宙とはむしろ無限と思った方が良いのかもしれない。弦理論、泡宇宙論などにより無数の宇宙が存在しているらしい。UFO、宇宙人実在を期待している者としては、面白くも複雑な思いであった。


今野浩「工学部ヒラノ教授の終活大作戦」青土社 2018年
今野浩「工学部ヒラノ教授の徘徊老人日記」青土社 2020年

とにかく読ませる。面白い。理系研究者には優れた文筆家が少なくない。寺田寅彦、中谷宇吉郎の随筆は別格として、現代では福岡伸一、竹内薫らは科学入門書としてレベルを落とさず、平易に解説してくれる。中村桂子のエッセイも心豊かにしてくれる。老境に達したヒラノ教授が自分の歩んだ研究の道、妻との日々を振り返りつつ、軽妙な文章で先へ先へ興味を引き付ける。随所に針がしこまれていて、これを読むとエッセイとは、一にユーモア、二に毒、三四が無くて五にリアリティー、ということになりそうだ。
ラジオを友として、散歩を日課にしている私も「ワカゾノ君の徘徊老人日記」を書こうかな。
『雑木林の道を歩いていると、市の防災無線が何か言っている。とぎれとぎれながら「市内浅羽野にお住みの○○さんが今朝自宅を出たきり戻っていません。年齢は70歳から80歳くらい、身長170センチ前後中肉中背、服装は白っぽい上着にグレーのズボン。いつもラジオを聴きながら歩いています」と言っているようだ。すれ違う人が、こちらを見ている。どこかの誰かに似ているようだ。家に帰る道はこちらのはずだ。もしかして・・・』気をつけよう。




コロナ第7波、小康状態になっているのでしょうか。でも、連日200~300人の死者が出ています。後遺症も深刻、楽観は禁物です。できる予防を確実に行って、災厄を最小化しましょう。


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