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【読書】大人になるということを恐れなくてもいいのかもしれない『シェニール織とか黄肉のメロンとか/江國香織著』
タイトルが気になって、図書館で思わず手に取って読んでしまった。
結論、とても素敵な小説だった。しっかりとした起承転結を求める人には向かないかもしれないけれど、たとえば、ちょっと久しぶりに小説を読んでみたい、できることならあたたかくほんわかした気持ちになりたいと思っている人にとっては、おすすめの一冊だなと思った。
私がこの本を読んで驚いたのは、登場人物の誰もが主人公のように描かれていること。もちろん、amazonの紹介にも書かれているように
民子、理枝、早希の3人(おそらく50代)の女性たちを中心に物語は描かれているのだけれど、民子の母である薫さん(80代)、民子の友人のお子さんであるまどかちゃん、そしてその彼氏の陸斗くん(おそらく20代)、理枝の甥っ子である朔くん、そのガールフレンドのあいりちゃん(10代)。
年代幅広く、1人1人の物語が、結構短いスパンで切り替わりながら個別に描かれていることが印象的で、それがゆえに、かなり幅広い年代の人でも楽しめる小説となっていた。
彼らの日常を読み進めていく中で、自分にとって、つらくなったときにきっと支えになってくれそうな言葉たちがいくつかあったので、下記に忘れないように引用して、つらくなったときに見返してみようと思う。
☑自分自身が、結婚するかどうか迷ったときに思い出したい言葉(ちなみに予定もないし、気になる相手もいないのでまだほど遠い未来かもしれないし、そもそもしないかもしれないけれど、、。)
まどかの人形じみた丸顔を思いだし、
「小さいころから知っているからかもしれないけれど、結婚するには子供すぎるように見えるわ、まどかちゃん」と民子が言うと、
「結婚って、基本的に子供がすることでしょ」と即座に言い返される。
・・・「確かに!そう考えると納得がいくわ」
結婚が子供のすることだというのは、民子には新鮮な発想だった。が、理枝には当然の発言だったらしく、そんなことも知らなかったのか、と言わんばかりの顔をしている。
☑自分の目的とかやりたいこととかわからなくなって気持ちが沈んでいるときに思い出したい言葉(今も絶賛無職なので、その間にも何度か振り返りそうな予感)
「みんな忙しそうで、目的ありげに歩いているところがいい」と。
普段二人が渋谷に来るのは週末が多い。・・・
「ほんとだね。渋谷は平日の夕方がいちばんだな」朔は心から同意し、
「でもなんでだろう。俺らは目的もなく歩いているのに」と疑問を口にした。「だからじゃない?」大きな伊達眼鏡ごしに目を見ひらいて、あいりは声を弾ませる。「仕事とか誰かとの約束とか、わかんないけどみんな何かに追われていて、何も追われていない私たちの時間とうれしさが輝きを増すっていうか」輝きという言葉に苦笑しつつも、朔は感心してしまう。そんなふうに考えたことはなかったが、その通りかもしれない。
☑SNSとかネットの世界に疲れたときに思い出したい言葉(たまに離れてみるのもいいかもって思ったりしている。デジタルデトックス的な。)
「ポークパイハットはともかく、シェニール織はショックだわ。」民子は言った。・・・早希はうなずき、「インターネットってほんとうに便利。なんでもすぐ調べられるんだもの。あのころにもしインターネットがあったら、ポークパイハットだってシェニール織だってすぐ検索できただろうけど、そうじゃなかったからよかったとも言えるなあって思うの。だって、正体不明だったからこそこんなに時間がたっても憶えてるくらい印象的だったわけだから」と言った。「いまは何でもすぐ調べちゃうけど」と。民子は感心する。
☑大人とか社会人として生きることがつらくなったときに思い出したい言葉(これは何度でも自分を救ってくれそうな気がしている。)
「でも、大人になったって甘ったれは甘ったれよ?民子や理枝ちゃんや、そうでなくてもまわりを見てればわかるでしょうに」と。さらに「八十歳のおばあさんの言うことを信じた方がいいわ。甘ったれってね、決して子供の特徴じゃないのよ」
☑変化することが怖いと立ち止まってしまいそうなときに思い出したい言葉(自分の不健全に焦点を当てることってとても大切なことなのかもしれない。)
「人って実際にやってみるまでは、自分にそんな変化は絶対無理って思っちゃうんですよね」と。「そうなの?」「そうですよ。私だって陸斗と別れる前は、陸斗なしの生活なんて絶対無理って思ってましたもん」ひさしぶりに遊びに来たまどかちゃんは元気そうだ。「でもいまは逆に、よくあんなに不健全なことができてたなって思います」「そうなの?不健全だったの?」「そうですよ。すごーく不健全でした」まどかちゃんはにこにこしている。完全にふっきれた、ということなのだろう。そうであるならばよかった、と民子は思う。
本書は268ページもある結構な長編小説で、基本的に登場人物たちの日常にスポットを当てているので、すらすらと読み進めることができるのだけれど、こうやって、小説のところどころに、なんだかぶっ刺さる表現がさりげなく突如として登場するので、その度に、なんだか、考えさせられるなぁと感慨にふける時間まで含めて、よい読書時間になったなと思った。