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【読書】極めて不快な社会の提案『彼女は頭が悪いから/姫野カオルコ著』
自分自身が完全なる読書家だとは、まったく言い切れないけれど、それなりに人生読書を楽しんできた中で、ワースト1位にランクインするくらいに、読了後、極めて不快な気分になった一冊だった。
2016年に発生した東大生強制わいせつ事件から着想を得て書かれたというこの小説。
実際の事件に関するURLを見つけた。
完全なるフィクションとして描かれている小説ではあるけれど、読んだあとにこの事件の詳細内容を読んでみると、たしかにこの事件の背景って実際のところ本当にこんな感じだったのではないかと、妙にノンフィクション味を感じてしまう、不思議な小説だった。
自分が読んでいて不快だと思った点は数数えきれないくらいに挙げられる。
東大生というステイタスに浸る若者たち
自分と一緒に歩く彼氏、彼女にステイタスを求める若者たち
性に関する価値観の押し付け
当事者に全く関係のないところで一人歩きする誹謗中傷
おそらく、登場人物たちが自分の年齢とかなり近いこともあって、より不快感を感じてしまったのかもしれない。
けれど、一番不快だと感じたのは何より
この小説をフィクションだと
思い込めない自分自身だったように思う。
きっと全員とは言わないまでも
私と同じ年代で、大学に通ったことのある人なら、SNSが発達してきた時代に青春時代を送ったことのある人なら
どこかで必ず心当たりを感じてしまう。
そんな、現実味がありすぎる小説だった。
この小説の時代設定は約10年前。
その時代よりも現代においてさらにSNSは発達していて
なにを「わいせつ」として
なにを「セクハラ」としないかの判断は
当事者たちに判断を委ねられるというより
世間に判断が委ねられるというよくわからない状況に陥り
そうやって判断を委ねられた世間側の「他人事感」は匿名性の発達したSNSによって助長され、まったくもって当事者たちに関係のない他者の発言は、自分だとバレないことをいいことに発言責任もクソもない状態で、根拠の破綻した意見が、またたくまに一人歩きして
ふと気が付いて、俯瞰してみたら
誰一人、事件のことなど真剣に考えていないのに、その極めて他人事の世間の意見たちによって、当事者たちが本当に無駄に傷つけられたり、振り回されたりしている。
と本当によくわからない状況になっている
ということがフィクションとして描かれてはいるのだけれど、その事件当時よりもさらに、現実社会において現実味が増していると思う。
「そろそろこんな社会で生きるの嫌じゃない?」
「そろそろみんなそれに気づいて、辞めようよ。」
ことごとく小説内に含められた究極の違和感と不快感をもってして、著者のそんなメッセージが力強く伝わってくる圧巻の一冊だった。