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【読書】死への向き合い方は人それぞれ『夜明けのはざま/町田そのこ著』

人の「死」という出来事に割と無縁の人生を送ってきたように思う。

私が産まれてからというもの、日本国内で戦争が起こってたくさんの人が亡くなってしまうみたいなこともなかったし、幸いなことに、地震や水害、そういったものに直接見舞われるなんてこともなく生きてきた。

明日自分が死ぬかもしれない可能性なんて、よほどのことが起きない限りゼロに近い。そういう人生を送れている時点で私はこの上なく幸せなのだと思う。

ちょうど2年前、母方の祖父が亡くなった。おそらく、私が人生で「死」を一番身近に感じた出来事だった。一緒に住んでいたわけではなかったものの、会っていたときはいつだって優しかった祖父。

お通夜にも、お葬式にも参加して、けれど不思議と寂しさを感じることはなくて、悲しいという感覚もいまいちなくて、そんな私は変なのだろうか、ちゃんと喪に服さないといけないのに、これぽっちも悲しみを感じない自分をなんだか、恥じてしまった。

自分は、もっと近しい人間(父、母とか)が亡くなったら、きちんと悲しみを感じることができるのだろうか。そもそも喪に服すってなんだ。近しいってどこまで近しかったら私は涙を流すのだろうか。そもそも涙を流さないといけないのだろうか。

よくわからない自分の戸惑いの感情と、なぜか私は「遺体」というものが怖くて、祖父の最後の姿を、見ることも、触ることもできなかった恐怖だけをよく覚えている。

とにかく怖かった。見たくなかった。

なんだか消化不良の違和感だけが残ったまま、あっというまに2年という月日が流れて、そして本書を手に取って、久しぶりに「死」について考えることができたように思う。

とにかく「死」について考えさせられる小説だった。
舞台は家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」
その場所を中心として、ひとりひとり、誰一人同じではない、「死」への向き合い方がそれぞれに描かれている。

印象的だったのは、葬儀社の社長、芥川の「死」の捉え方だ。
彼は葬儀社の社長であるにも関わらず、死に恐怖を感じてしまっている。
一定の距離を置くため、彼は社で行われる葬儀には関わらない。

火葬場での言葉が印象的だった。

「や、こういうとこも、無理なんだ。火葬場とか、ご遺体を焼くとか」
怖くて、と蚊の泣く声で付け足す。

本書より引用

なんだかこのシーンに私は心が救われた気がした。
そして、2年前のあの日の違和感の要因がわかった気がした。

おそらく、私は怖かったのだ。「何が?」と聞かれて言語化できないような恐怖の感情が私にはあった。「遺体、火葬場、死体を焼く」とにかく全部が怖かった。悲しいとか寂しいよりも、恐怖の感情が私には勝っていた。

けれど、私がその当時、参列していた人たちを見る限り、「怖い」なんて言葉を発している人は誰一人いなくて、みんな同じように悲しんでいるように見えて、私だけが異常な感覚に陥ってしまって、それがまた怖くて違和感だけ残ってしまっていたのだ。

仲間がいる。
そう私と同じように「死」に対して恐怖を感じてしまう人がいる。
なんだか安堵の気持ちが沸いた。

『死』は、誰にでも必ず訪れる。その苦しみ、哀しみ、惑い、恐怖こそが、平等に受け入れなければならないもの。そこに豊かさも、貧しさも存在していない。井原のように哀しみをいまも抱え続ける者がいて、おれのように受け止めきれずに迷走する者もいる。立ち向かおうとあがく芥川のような者もいる。そして中には、真正面から受け止めて耐える者もいるのだろう。

本書より引用

本書には、私が印象に残った芥川だけではない、さまざまな人々の「死」への向き合い方が、描かれている。

そのどれもを読んで思ったことは、「死」への向き合い方に、正解なんてものはないということ。それぞれに「死」の受け取り方があって、それは多種多様だ。

あたりまえ、なのかもしれないけれど、私的にその事実は新しい発見だった。「死」が身近でなかった分、自分の祖父のときは本当に戸惑ったし、必死で周りの参列客を観察しながら、どれが正解なのかを探している自分がいた。

「死」に関わる場だからこそ、何が正解かなんてことも、気軽に聞ける雰囲気じゃないし、下手にわからないなど言えなくて、だからこそ、本当にどう向き合ったらよいのかわからなくて、困惑していた。

そういう意味で、本書を読んで、よかったと思った。
ここには、一つの正解なんてない、「死」と向き合う人々のそれぞれの葛藤と生き様がここぞとばかりに描かれている。

「それくらい、って言わないで。自分がそうやって簡単に言い捨てたことが、相手の大切なものだったりするんだよ」

本書より引用

大切なことはきっと、「死」への向き合い方に正解を見つけようとするんじゃなくて、それぞれの「死」への向き合い方を理解して、尊重すること。

そんなことを学べた、素敵な一冊。

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