Haruka

思い浮かんだ空想話を文字起こしする28歳です。 絵も描きます。

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最近の記事

#6 違和感 【いなかったはずのあなたへ】

血縁 もう私は、自分の直感に沿う展開に、 完全に相手が血縁関係のある人だと信じていた。 先に私が名乗ったのだから、相手が合わせて 嘘をついているかもしれない、など疑いもしなかった。 一方、向こうはまだ私を夢の中の人物と思っているようだった。 「どういう設定なのかしら。姉妹だったりして。 お母様はなんという名前なの?」 「菱川京子だよ。」 私は彼女に微笑んで、正直に答えた。 血縁関係を信じてから、自分も謎の落ち着きを取り戻していた。 親戚の女の子だと思うと、なんだか急に親

    • #5 直感 【いなかったはずのあなたへ】

      理性と直感 肩を支えながら、その女の子を母屋のリビングに連れていった。 ダイニングテーブルの椅子に座らせて、何か飲み物をキッチンで探した。 終始彼女は俯いていた。 水をコップに入れ、女の子の前に置いた。 「落ち着いたらで良いから、親御さんに連絡しようね」 そう彼女に伝えながら、自分の冷静さに驚いた。 内心自分も混乱しているが、大人としてやるべきことは頭で分かっていて、 それを淡々とこなそうとしている自分がいた。 その子がおばあちゃんの子供時代にあまりにもそっくりで、 た

      • #4 出会い【いなかったはずのあなたへ】

        困惑 「ここ、私有地ですよ」 女の子は不安そうに私を見上げた。 不安というか、ものすごく困惑しているようだった。 いたずらが見つかってしまったから 焦っているのかと最初は思った。 が、それであれば声をかけた瞬間に一目散に逃げるはず。 「大丈夫?」 と声をかけたが、立ちすくんだまま言葉が出ないようなので、 仕方なく下に降りて話を聞こうと思った。 今思うと、年下の女の子といえど不法侵入者に 丸腰でのこのこ会いに行くのはどうかしてたが、 なんとなく大丈夫な気がしていた。 と

        • #3 転機【いなかったはずのあなたへ】

          前夜 あの事件が起こる前の夜は、連日の猛暑が嘘のような、 すっと涼しい夜だった。 私は、ベッドに寝転がり、音楽を聴いていた。 「結佳の音楽の趣味ってメンヘラだよね」 中学の時、友達にそう言われたことがある。 昔から希望に満ち溢れた、アップテンポの曲は苦手だ。 無理して明るくして、現実逃避しているような気持ちになる。 そんなことを色々考えているうちに、 気づいたら眠りについていた。 物置蔵 朝日で目が覚めたと思う。 カーテンが開けっ放しだった。 少しぼーっとしてから

          #2 研究所にて【いなかったはずのあなたへ】

          記者会見 某時間研究所— 「では、ここから質疑応答の時間とします。」 司会者がマイクでアナウンスした。 記者団から続々と手があがる。 「では、○○テレビの方どうぞ。」 司会者が指名したと同時に若い男性記者が立ち上がった。 「○○テレビです。過去や未来に自由に移動ができる、 いわゆるタイムマシーンは実現可能となるのでしょうか」 会見テーブルの研究者たちの中で、50代手前と思われる白衣の男性研究者が手元のマイクに手をかざした。 「我々の研究所では10年、早くて5年以内の実現を

          #2 研究所にて【いなかったはずのあなたへ】

          #1 はじまり【いなかったはずのあなたへ】

          「その奇跡みたいな時間、私の分も、大切に過ごしてよね。」 彼女は寂しそうに、でもいつものいたずらっぽい目で笑って言った。 日常 私はあの時期、うんと時間があった。 実家暮らしの大学2年生で、夏休みだった。 そして気楽だった。両親は元々放任主義で、 夫婦で旅行三昧、よく留守だった。 私は元々よくしゃべるタイプではないし、 1人で気ままに過ごす時間が好きだった。 うちは元々この街でも有数の商家だったらしい。 今でもその名残で実家の敷地は広く、築100年を超える母屋と別館、

          #1 はじまり【いなかったはずのあなたへ】