#5 直感 【いなかったはずのあなたへ】
理性と直感
肩を支えながら、その女の子を母屋のリビングに連れていった。
ダイニングテーブルの椅子に座らせて、何か飲み物をキッチンで探した。
終始彼女は俯いていた。
水をコップに入れ、女の子の前に置いた。
「落ち着いたらで良いから、親御さんに連絡しようね」
そう彼女に伝えながら、自分の冷静さに驚いた。
内心自分も混乱しているが、大人としてやるべきことは頭で分かっていて、
それを淡々とこなそうとしている自分がいた。
その子がおばあちゃんの子供時代にあまりにもそっくりで、
ただの迷い込んだ近所の子とは思えないと直感では思いながらも、
結局は親に電話して引き取ってもらうのがオチだろうと、
自分の理性が言っていた。
「夢だから、覚めると思う」
女の子が口を開いた。
「おかしいわ。さっきまで、みんなといたのに。」
俯くでもなく、私を見るでもなく、
テーブルの虚空を見つめながら、澱みなく話していた。
「うん。きっとそうよ。」
何か決意したように、私の方を見た。
苗字
「お姉さん、私の目が覚めるまで、色々お聞きしてよくて?
あ、このお水をありがとう。」
急な切り替えに面くらっている私に、
「せっかくだもの。夢の人物とお話ししたい。」
と、彼女の目が輝き出した。
不安定な言動を聞いて、あれ、これは警察に連絡案件か?
と思い始めた私に、彼女は続けた。
「お名前はなんていうの?」
「菱川ゆかです…」
気づいたら私は正直に答えていた。
その途端、驚いたように目を丸くして、こう言った。
「私と同じ!私も菱川よ。菱川真理子。」
だんだん、目の前で起きていることが、
直感に近づいてきた。