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#6 違和感 【いなかったはずのあなたへ】
血縁
もう私は、自分の直感に沿う展開に、
完全に相手が血縁関係のある人だと信じていた。
先に私が名乗ったのだから、相手が合わせて
嘘をついているかもしれない、など疑いもしなかった。
一方、向こうはまだ私を夢の中の人物と思っているようだった。
「どういう設定なのかしら。姉妹だったりして。
お母様はなんという名前なの?」
「菱川京子だよ。」
私は彼女に微笑んで、正直に答えた。
血縁関係を信じてから、自分も謎の落ち着きを取り戻していた。
親戚の女の子だと思うと、なんだか急に親しみを覚えた。
それを確固として思えたのは、やはりその子が
おばあちゃんの子供時代の顔にそっくりだったから。
「存じ上げないわね」
コップを口に近づげながらその子は言った。
とても礼儀正しい、古風な表現を使う子だ。
こんな親戚の子がいたとは知らなかった。
分家など遠い親戚とは完全に疎遠になっていたけど、
皆そんな離れていない地域に散らばっているとも聞いたことがある。
違和感
また女の子が黙ってしまった。
今度はどうした、相当情緒不安定だな、と思っていたら、
「やたらと水が冷たくて本物みたい。」
と不安そうに呟いた。そして今度は私に食い入るように、
「ここはどこなの?」
と確認してきた。
「菱川家の家だよ」
このまま夢の話に付き合ってあげるのも限界だ。
そろそろ一体どこの誰なのか答え合わせをしたい。
ひらめいた。うちにかなり詳細な家系図があった。
「ちょっと待ってね」
ちょうど最近、叔父さんが家系図をデータ化して、
プリントアウトしてうちにも配ってくれたのだ。
急いで(彼女が変な気を起こさないうちに)2階に上がり、
家系図を持って下に降りた。
「真理子ちゃんはここにいるかな?」
彼女にA4用紙2枚に渡る家系図を見せた。
彼女はすぐに菱川家の家系図だと分かったようで、
食い入るように見つめた。
2分ほど経っただろうか。
「いない。お父さんもお母さんも、
おじいちゃんもおばあちゃんもいない。」
彼女は震えそうな声で言った。