#2 研究所にて【いなかったはずのあなたへ】
記者会見
某時間研究所—
「では、ここから質疑応答の時間とします。」
司会者がマイクでアナウンスした。
記者団から続々と手があがる。
「では、○○テレビの方どうぞ。」
司会者が指名したと同時に若い男性記者が立ち上がった。
「○○テレビです。過去や未来に自由に移動ができる、
いわゆるタイムマシーンは実現可能となるのでしょうか」
会見テーブルの研究者たちの中で、50代手前と思われる白衣の男性研究者が手元のマイクに手をかざした。
「我々の研究所では10年、早くて5年以内の実現を目指して時間実験研究を目下進めています。」
その答えに被せるように記者は続けた。
「時間実験研究とは具体的にどのような取り組みなのでしょうか。」
研究者は眼鏡の奥を光らせた。
「そうですね、タイムマシーンとは、ある装置を使って時間のねじれを発生させ、過去や未来の1地点と現在を繋げる技術です。」
一呼吸置いて、研究者は続けた。
「現時点、時間のねじれの発生自体は成功しています。
ただ、繋げたい特定の時点を定める方法が確立できていません。
装置に対してどの設定をすれば10年過去に遡り、
どの設定をすれば100年先の未来と繋げられるのか。
それを解明するには何度も"繋げる"ことを試す必要があるのです。」
別の記者が挙手をした。
「××新聞です。その実証実験で考えられるリスクはあるのしょうか。
意図せず過去を変えてしまうなど…」
研究者たちは互いに目くばせをした後、先ほどとは別の女性研究者が口を開いた。
「現在から物質、例えば我々人間ですね、が過去と未来に送られないように最新の注意を払っています。ある時点と繋げた際、見ることはできても、その時点に対しては物質は移動させない、変化を加えないことが大前提となります。」
なるほど、とつぶやきながら記者は着席した。
顔はそこまで納得していないようだった。
実は、現在から過去や未来に物質を送らない、という回りくどい説明には、研究者たちが当時把握していた、"隠れたリスク"の裏返しの表現であった。
過去や未来を"繋げた"時、現在→過去・未来には物質は移動しないが、
過去・未来→現在に対しては物質は送られてしまうのであった。
なぜなら、光が送られるから。光が送られなければ見ることもできない。
研究所の研究は進みすぎていて、当時の第三者はそのリスクに気づけなかった。
「あの事件」が起こるまでは。
大学生の私は、あんなことが起こるなんて当時は知る由もなかった。