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「本屋さん ててたりと」

川口駅を下りてバスに載って15分。少しだけ歩くと見えてくる、看板。

「本屋さん ててたりと」

一見、普通の本屋さんに見えるここは、障がいのある方が支援を受けながら働いている、「就労継続支援B型事業所」でもある。

そもそも、「就労継続支援」とはなんなのか。

就労継続支援とは、障害や病気のために一般企業や事業所での就労が困難な人々を対象とした福祉サービスのことです。はたらく場を提供するとともに、知識・能力の向上のために必要な訓練を行います。これは、障害のある人の日常生活および社会生活を総合的に支援することを目的とした「障害者総合支援法」に基づくものです。

就労継続支援を受ける人は、「就労継続支援事業所」と呼ばれる事業所ではたらきながら、就業のための訓練を受けます。

就労継続支援について

そして、A型とB型の違いはなんなのか。

就労継続支援A型とB型は「障害のある方が働く場所」という意味では同じになりますが、それぞれ目的や対象者、収入などの面で大きな違いがあります。

就労継続支援A型は、一般企業などで働くことが困難なものの、雇用契約に基づいて働くことができる方が、事業所と雇用契約を結んだうえで働くことができるサービスです。一方、就労継続支援B型は雇用契約を結ばずに、障害や体調にあわせて自分のペースで利用できます。

このように、一番大きな違いとしては「雇用契約を結ぶか結ばないか」という点になります。

就労継続支援について

簡単にまとめると、雇用契約を結ばずに働けるのが、「就労継続支援B型」で、この方々が、この書店には店員として在籍している。

障がいを抱えている方がいる、と分かった上で、一度訪れたことがある。どうしても行きたくて。

「本屋さん ててたりと」

「ててたりと」

なんとなく、声に出したくなる不思議な響きを持つ言葉。これを反対から読むと「とりたてて」

取り立てて特別な場所じゃなくてもいい。でも、もしかしたら、誰かにとっては特別な場所になるかもしれない。柔らかい、優しい言葉。手を取り合っている看板が、とても印象的だった。真っ白な看板。真っ白なら、どんな色にだって染まることができる。どの色にも染まらずにいることだってできる。

店内に入って、一番に目を引いたのは手書きのPOPだった。「この本売れています!!」とかではなく、著者へのラブレターなのではないか、と思うくらい、熱い真っ直ぐに込められた想い。その時見たものは、ものすごく長文で、その人がどれだけこの本を好きなのか、その気持ちが、手に取るように伝わってきた。人の心を文章だけで動かせる人は、すごい。思わず、わたしも買ってしまった。

買いたい本を決めずに、ふらっと立ち寄ったら、散財してしまいそうな危険性がある。それくらい魅力的な文章だった。

「障がい」と、一括りにするのは簡単だけれども、その背景には、色々なものがある。そんな方たちが集まって、店員として働いている。熱心に、楽しそうに、生き生きとして。

ああ、なんだろう。胸が熱くなった。目の前に頑張っている人がいる。頑張って生きている人がいる。わたしも、障がい者手帳を持っているのだ。持っているからこそ、すこしだけ、気持ちがわかる。

世間一般的な「普通に」働けなくなってしまったとき、この世の終わりかと思うくらいに、絶望をした。働かなきゃいけない…。それなのに、身体は動いてくれなくて、まるで、自分の身体じゃないみたいだ、と思った。

心と身体が、ずっとちぐはぐで、泣くことは出来ても、起きることすら、ままならなくなった。

それってどんな感じなの?と聞かれることがある。

そんな時、決まってわたしはこう答える。

「海で溺れたことある?助けて欲しくて、もがいてももがいても、どんどん沈んでいっちゃうの。呼吸ができなくて、底がどこなのかも分からないまま、ジタバタすればするほど、どんどん深く深く沈んでいく」

これ以上の表現が見つからないくらい、生き地獄だ。生き地獄だった。

いまは、薬を飲みながら、働けるようになった。それでも、しんどい時はしんどくて、ふらふらっと生きるのを辞めたくなる時だってある。

障がいを持っているからと言って、特別扱いして欲しい訳ではない。でも、面接の時に、正直に言えば、白い目で見られることはあって、それを理由に落とされることが、何回も何回もあった。その度に、自分自身を否定されているような気持ちになった。

「障がいがある」それだけで、その色眼鏡を通してでしか、わたしのことを見てくれなくなった。他の資格など、なにも見ずに。

だから、今働いている場所でも、わたしは、もちろん、それを隠して働いている。

実際問題、差別も偏見も、あるけれど、それが無くなって欲しい、とは言えない。「障がい」があるないに関係なく、みんな、みんな、頑張って生きているから。

差別することが、悪いことだとも言えない。きっと、わたしも無意識にしているだろうから。

ただ、優しさが循環して欲しい。そう思うことは、ある。

「ててたりと」に行ったあと、帰りの電車の中で、この「ててたりと」を立ち上げた、竹内さんのインタビュー記事を読み漁っていた。

統合失調症を持つ弟さんを、亡くしたことがきっかけだったという、竹内さん。本屋さんを選んだことにも、ちゃんと意味があった。

「パンや菓子ではなく、本を売りたい障害者もいる。ここがあることで、障害者の職業選択の幅が広がる」と竹内さん。売れ筋にはこだわらず「障害者の居場所を守っていきたい」と力を込めた。

毎日新聞より

わたしが、就労支援を選ばなかったのは、選択肢が少なかったからだった。就労支援は単純作業の仕事が多い。それが配慮なのだということもわかってはいる。でも、飽きてしまう人もいる。目に見えて、評価がある方が頑張れる人もいる。ここで言う評価とは、売り上げとかではなく、お客様の喜ぶ顔とか、そういうものだ。

文句を言うなと言われてしまいそうだけれども、障がい者にも、職業を選ぶ権利があって欲しい。就労継続支援にも、色んな形があって欲しい。

この書店で働いてみたい。この本屋さんで働いてみたい。一度行っただけなのに、そう思わせてくれる、魅力があった。

「障がい」を持っている。たったそれだけで、驚くほどに自分に自信が無くなってしまう時がある。でも、もし、自分が書いたPOPを見て、本を買ってくれる人がいたら。成功体験が、目に見えてわかるって素敵なことだ。

人と話すことが、怖い人もいる。言葉にして伝えたくても、その言葉が見つからない人もいる。そんな人だからこそ、文章でPOPで、伝えることが出来るのかもしれない。

そして、本屋さんでなら直接お礼を言うことが出来る。ひとりの人として、対等に向き合うことが出来る。これって、本当にすごいことだ。下に見られたり、同情されたりするのではなく、対等な視点に立てること。

お金を払った先が、その人の工賃になる。お金を払う先に、その人柄が見えるのは、買う側も嬉しい。それが、その人自身の自信に繋がるとしたら。明日を生きる希望になるとしたら。こんなに嬉しいことはない。こうやって、幸せが、優しさが、お金が循環して欲しい。

わたしは基本、紙の本は買わない。家に置く場所がないから、手元に置くのは10冊までと決めている。なので、図書館で借りるか、Kindleで買うかのどちらかだ。

「本は紙派です」って人もいるだろう。書店がどんどん閉店していっている今、書店で本を買うことがどれだけ大切なのか知っている。

でも、その人にはその人の事情がある。それを忘れてはいけない。だから、わたしは、半年に一度程、ここに訪れて、目に止まった本を買いたいと思っている。目的はなしに、ここのPOPを見て、気になった本を買いたい。

そうすれば、積読になることもない。むやみやたらに手を出さなければ、本が増えることも、読まなきゃ…!と義務感で読むことも、ない。

次こそは、「この本のPOP素敵です」そう話しかけてみたい。「以前、ここで購入させて頂いたんです」って。直接お礼を伝えられたら良い。直接は、難しくても、小さなお手紙でも。

「ありがとう」この言葉が、自分も周りも幸せにできるように。こんな場所が、増えたら良い。そう願いながら、県外の本屋さんに足を運ぶ。誰かの役に立っている、そう思えることってやっぱりわたしも嬉しいから。優しさやお金を循環させる上では、自分が嬉しいって気持ちも、大切だと思うから。

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紫吹はる
いつもありがとうございます。愛用していたパソコンが壊れてしまったので、新しいパソコンを買うための資金にさせて頂きます。