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掌編小説¦かわりもの

わたしの彼氏は、わたしが欲しいと言ったものなら何でも買ってくれる。去年のクリスマスプレゼントは、LOEWEのふわふわのマフラーだった。今年は何にしようかな。

「今年は、藍との子どもが欲しい。」

藍の気持ちを確かめたい気持ちもあって、冗談で言ってみた。

「え?!…子ども、か……。」

藍が戸惑っている姿を見て、鼓動が早まるのを感じる。これは、どちらの反応なのだろうか。

「うん、分かった。良いよ。子どもにしよう。」

その笑顔を見た瞬間、わたしの頭の中で、結婚式場の鐘が響いた気がした。これは、そういうことだろう。期待して良い、ということだろう。

クリスマス当日。プレゼント交換の日。いつもよりも、気合いを入れて来た。赤いラメのニットにサンタさんが描かれたネイル。髪の毛は、巻き髪にしてケープもしてきた。完璧だ。最後にトイレの鏡を見て、前髪をささっと整える。

わたしは、今日きっとプロポーズされる。想像しただけで、胸がぎゅーっとなる。ドキドキしながら、藍が待っているホテルへ向かう。

「お待たせ!!」

「うん。じゃあ、目をつぶってせーのでプレゼント交換しようか?」

「うん!!せーのっ!!」

藍から手渡されたものは、生温かかった。奇妙なくらいに。

恐る恐る、目を開ける。

「え…えっ…」

言葉にならない、悲鳴をあげた。わたしの手のひらには、赤ん坊が載っている。温かい。まだ、温かい。生きている赤ん坊。

「………これ、どうしたの?」

「ん?欲しいって言うから、盗ってきた。」

盗ってきた。その言葉を、繰り返すように呟く。わたしのために、わざわざ盗って来てくれたのだ。藍はやっぱり、変わり者だ。

「ありがとう。藍、大好き。」

「ん。俺も。」照れたような返事が返ってきて、思わず笑ってしまう。

「これでさ、ずっと一緒に居られるね。」わたしは、言った。

赤ん坊が泣いている声が聞こえる。「はいはい、私たちがあなたの新しいママとパパでちゅよ〜。クリスマスプレゼントでちゅよ〜。」

Fin-【810文字】


こちらの企画に参加させて頂きました✧*。

#灯火物語杯

言葉遊びも兼ね備えています。

「変わり者」と「代わりもの」「替りもの」。あえて、日本語のタイトルにしてどの漢字を当ててもおかしくない物語にしてみました🎄.*

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