今週の読書録
今週の4冊は時代や背景は異なれど、生き方や価値観を考えさせられる作品です。
新年度・新学期の環境の変化があった方におすすめの作品。
ここだけのお金の使いかた
定期的に読みたくなるアミの会の作品。
今回は、原田ひ香さん、大崎梢さんなどの7名の人気作家が「お金」にまつわる悲喜こもごもを描く、短篇小説アンソロジー。
宝くじで100万円あたった主婦の選択や流行りのFIREを目指す夫と妻の選択、推し活と買い物依存症。
多様なお金との向き合い方をテーマにした短編集なので、読み応えがありました。
永嶋恵美さんの作品ははじめてでしたが「廃課金兵は買い物依存症の夢を見るか?」は、この本で一番好みの作品。
推しへの課金とこだわり、お金の使い方と人間関係が程よいバランス。
結末には少しホロリとし、ほんわりする読了感でした。
家康の血筋
戦国武将知名度ランキングでは上位に入る徳川家康。
特に今年は大河ドラマの主役ということもあり関連作品が例年よりも目立ちます。
こちらは戦国武将を主人公にした作品を多数執筆する近衛龍春さんによる徳川家康の次世代に焦点をあてた作品。
長男・信康と三男・秀忠は、大河ドラマをはじめ登場頻度も高いのでイメージできるものの、本作ではあまり登場しない第二世代も主役です。
偉大な創業者の子息は何かと苦労が尽きぬという前例にもれず、彼らも己の能力・周囲の人物の思惑等、何かと悩みが尽きぬようです。
それでも各々心中では後継の座を狙っているのが現代を舞台にした作品とは異なるところ。
現代ものであれば兄弟のうち、後を継ぎたくない人物も混じっているものの、この時代の価値観では同腹の兄弟であっても隙あらばという欲がのぞく。
戦国武将を主人公にした作品が好きな方、事業承継に悩む方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
しろがねの葉
千早茜さんの直木賞受賞作『しろがねの葉』。
豊臣秀吉から徳川家康の治世下の石見銀山が舞台で、先日読んだ『家康の海』や今週読了した『家康の血筋』の時代と重なる労働者層に焦点を当てた作品です。
大久保長安も登場し、松平忠輝等の江戸幕府二代目時代が描かれているので、『家康の血筋』読了直後には初見とはまた異なる味わいがありました。
貧しい農村では子女の人身売買が普通であった時代に、食べるに困らぬ地域では子を産む女性がある程度大事にされていたという。
それでも男性同様に外貨を稼ぐような働き方は異例の環境で、主人公のウメは特性をいかして銀山での職を得ます。
しかし、それも初潮を迎えるまでのモラトリアムのようなもの。
長じて後には、女性として扱われることで戸惑い、苦しみの後に月並みな幸せを掴みます。
生き方を選ぶという感覚が現代と違い異質だった時代、心を傾けた人たちを次々と見送る主人公の生きざまは読みごたえがあります。
近年の直木賞受賞作の中で最も好きな作品です。
揚花の歌
著者の青波杏さんは女性の労働問題を専門とする女性史研究者なのだとか。
ラストは少しテイストは異なるものの、特に序盤から後半にかけて、時代や主役、舞台となる土地が入れ替わりテンポよく進む。
『ジョーカーゲーム』や大戦前夜を描く作品に共通する空気感です。
自らの本名すらも忘れてしまうほどの流転の末に巡り合う人物たちは曲者ぞろい。
異国の地で密命に挑む主人公、周囲の人物はあっけなく退場していく中でたどり着く先に待っているものは。
小説すばる新人賞受賞作の『揚花の歌』は、南国の腐りかけた果物、スパイスや潮風が混じった砂煙が混じった香りが漂うような作品でした。