今週の読書録
さんかく
今年の直木賞受賞者として今注目を集める作家のひとり、千早茜さんの作品です。
3人の主人公視点でロンドのように繋がっていく短編。
「食の趣味が合うから」という理由でルームシェアを始めた学生時代のバイト仲間の男女。
それぞれパートナーは別におり、男性主人公の彼女が3人目の主人公。
時々一緒に食事をしていた10年以上前のバイト仲間が、ただそれだけだった二人はある日酔いつぶれた相手を介抱する流れで一緒に住むことになる。
人としては好きでも男女の情はない二人。
しかし、周りから見れば独身の男女が一緒に住んでいるというだけで、色々と想像されるもの。
当然、男性の彼女もモヤモヤし、関係がこじれる。
京都の古民家を中心に紡がれる食と男女の恋愛のもつれ。
自宅で土鍋で炊くご飯、小料理屋の季節のお惣菜、地元で人気のベーカリーのパン。
美味しいものの描写はモデル店舗をうかがいたくなるくらいで、空腹時の読書は厳禁。
絡まった関係がやがてほどけていった先でたどり着く結末は…
環境が変わる春に読みたい一冊です。
とりあえずお湯わかせ
人気作家・柚木麻子さんのエッセイ集は、感染症拡大時に初めての出産育児に奮闘する姿と日常を切り取った作品。
柚木さんといえば美味しい作品とシスターフッド関連が人気。
連載していたエッセイをまとめ、章の終わりには書下ろしも加えられているので、柚木さんの当時の心の在り方をリアルに感じることができます。
なるほど、柚木さんの美味しい作品が妙に臨場感あるのは、彼女特有の才能らしい。
友人との会話の中で、柚木さんの商品紹介する姿は実際にYouTubeで拝見したいと思わせる内容でした。
尚、赫々たれ
昨年の秋冬に評論家の方々が次々に取り上げていた作品です。
晩年の立花宗茂を主人公として、徳川家康を敬愛する三代将軍・徳川家光が関ヶ原の舞台裏を聞かせてほしいと依頼するところから始まります。
戦国時代を生き抜いた往年の武将、千姫と家光兄弟らが登場し、意識は戦国時代の最後の輝きを追うように思いを巡らせます。
関ヶ原の敗将で唯一旧領を回復したといわれる名将・立花宗茂が語る過ぎ去りし日の思い。
豊臣家へ嫁いだ千姫の思いと徳川を継ぐ家光の心のうち。
見えそうで見えない各々の心の中に思いを巡らせる作品です。