星と鳥と風~2 クマさんに出会った
クマさんの目からは
今までに感じた事のない圧力を感じていた。
「だかがゲームだと思ってるでしょ?」
「どうせ負けたって、適当な話しでもしとけば
このクマは余裕だ。」
って思ってない?
(流石クマさん。彼には、人の心を読みとく力があったんじゃないか?と、今更ながらに思う。
それに自分がクマだと、もう受け入れている。
「じゃあ負けた方が、恥ずかしかった話
+何かを奢る。」
「恥ずかしかった話が面白く無かったら
さらに追加で何かを奢る。
上限五千円分の賭けにしよう」
と言った。
冗談じゃない
中学生の五千円は相当大きい。
「マジで言ってます?」
クマさんに問うと。
「マジだよ〜。
何でも本気じゃなきゃつまんないでしょ?
だから君は家庭教師の僕を家に呼ばれて
やりたくもない勉強をしなきゃいけないハメになってるんでしょ?せめてゲームくらい
本気で勝ちに来てみたら?」
と言い放たれた。
【カチーン】
「この熊五郎め、、ぜってー勝つ。」
先程打ち解けた事を帳消しにたい程
頭に血が昇ったのが分かった。
【私はまんまと、クマさんの話術の中だった。】
「そうそう、その目、その目じゃなきゃ
死んだも同然。」
【クマさんの煽りはえげつなかった。】
だが
最初のレースは私が勝った。
「まぁまぁ、僕、マリオカート初めてだし
でも、要領は大体分かったよ。」
私達がやっていたマリオカートのゲームは
一つの大会で、5レースあった。
その5レースを相手のプレイヤーと
コンピューターのキャラクター同士で戦い
最後に金のトロフィーを勝ち取った人の
優勝になる。
2レース目も私が勝ったのだが
クマさんは2レース目にはもう私のすぐ後ろまで
迫っていた。
「もう負けないよ。
次からは君が負ける番だ。」
不気味に笑うクマさんには
確かに確証があったのだと思う。
それから私は3連敗を喫し
3対2で
クマさんが勝利した。
「ね。言ったでしょ?次は君が負ける番だって。」
君はどうしても同じ動きをしてしまう。
そんな【弱点】を見つけたんだよ。
きっと普段の生活でもそうだと思うんだよね。
何も変わらないループは一件すると楽だけど、
一度でも負けると負けのループに入りやすく
【負け癖】
が付いてしまうんだよな〜
と、クマさんは言った。
(それもそうだけれど、たったの2レースであんな神懸かりなコントローラー捌きをする
クマさんは、そもそも只者じゃない気がした。)
それに僕は、いろんな意味で負けた気がした。
「まぁまぁ!そう落ち込みなさんな。
来週の水曜日にまた来るから
その時までに(ワンカートン)よろしく*」
懸けはしっかり機能していた。
「当たり前でしょ??失う事を知らないと
得る喜びにも気づけないでしょ。」
「あ、あと、恥ずかしかった話、聞かせてね*」
クマさんは満足そうにもう一本、たばこに火をつけた。
「恥ずかしかった話ね〜」
「あ、そういえば僕、この前好きだった子に振られちゃいました。」
と言うと
「えっとぉー、それは恥ずかしい話じゃなくて
めちゃくちゃ切ない話しじゃん!
まぁ聞いても良いけど。」
とクマさんが答えた。
私は、一部始終を伝えると、
「う〜ん。恥ずかしい話の予定なんだけどなぁ。
それは賭けの前に、応援したくなっちゃう話だよいやぁ参ったなぁ〜」
と、言いながら、徐に私のノートを捲り始めた。
「これ何?」
ふと、クマさんが質問する。
そこに書いてあったのは
私が授業中に、空を眺めて
書いたであろう
【詩】
のようなモノだった。
【めちゃくちゃ恥ずかしかった】
書いていたことすら自分で忘れていたくらいの詩だった。
「へぇ〜なるほど
文系だ。」
クマさんはそう言いながら続けた。
「文学を書いたり、詩を書いて、歌ったりすれば
いいんじゃない?」
「そうなんですか?バンドはしてますよ。」
と、答えると
【それだ】
クマさんは急に何かのスイッチが入って
ノートに風のように文字を聞き綴っていた。
そこには
【卒業までに必ずやる事ノート】
と、記されていて
*毎日クマの宿題を必ずやる
*パターンを抜け出す
*志望校に必ず合格する
*詩を完成させる
*曲にする
*振られた子の前で演奏する
*もう一度告白する
と書かれていたと思う。
(うる覚えだけど)
クマさんは
「よし、方向性は決まったし。
卒業までどうぞよろしく」
と、熱い握手をしてきた。
戸惑いながら私も握手を返した。
「大丈夫。何が起こっても。
女なんて星の数ほどいる。
それに、さっき見た君の詩。
最近聴いたどの詩より
心に刺さったよ。
そっちの方が重要。
と言われたが
私の落書きのような文字を
【詩】
として捉えてくれたのは
クマさんが初めてだった事を
これを記しながら思い出した。
*いやぁ、小さな良い友達が出来たよ*
大柄なクマさんはそう言って、
家の階段をミシミシ言わせながら帰ってった。