星と鳥と風~3 青い炎

クマさんと別れた次の日
ガヤガヤした教室の中で
ヒロトを探した。

そういえば私は
詩のようなモノ
は、書いてはいたが
自分ではそれが
詩とは思ってもいなかった。

ただのスケッチ。
それが絵の人もいれば、音楽の人だっている。
ただそれが、私にとっては、文字だっただけ。

それが見る人によっては

【詩に見えるのか】

私は以前、詩は神様がこの世に落とし込んだ
メッセージだと勝手に思っていたので
詩=神聖なモノ
の認識でいた。

兎に角
自分が何気なく書いた詩が
曲になるかが気になって
ヒロトを探していた。

だが

【こんな時こそ中々接触できない】
私は、ジレンマのような勝手悪さを感じていた。

そうこうしていると、お昼が来た。
給食当番の週だった私は、最近越してきた転入生の女の子(伊織ちゃん)と2人で
【小さいおかず】
(サラダなど)
が、入った給食を運んでいた。

すると
幼馴染の隼人が、100m先に見えた。

「おはよ〜お猿さん!」

伊織ちゃんは100m先の隼人に手を振った。
(きっと伊織ちゃんは1ミリも悪気はない)

だが当時、隼人には
【絶対に言ってはいけない言葉】
があった。

1.猿
2.岡村
(ナインティナイン)
の2つなのだが。
隼人はこれらを言われると、問答無用で
切れてしまうのだった。

伊織ちゃんは、何の悪気もなく
隼人に言ってはいけない
第I位のボタン
【猿】を
押してしまった。 

100m先からすごい形相で走ってくる
隼人。

あっという間に目の前に来ると
「あちょ〜!」
と、言いながら
身体を空中で回転させる
隼人が見えた。

「キャッ!!」
あまり声を出す暇もなく
伊織ちゃに、隼人は

【飛び後ろ回し蹴り】
をお見舞いしていた。

パタッと、漫画みたいに、その場に倒れた伊織ちゃん。
持っていた【小さいおかず】が散乱して、

【事件だった】

その後も倒れた伊織ちゃんを罵倒する隼人。

皆んなでそれを引き止めて、
隼人は、「貴様は何してるんだ!」と
体育の先生に、首根っこを掴まれて
校長室へと連れて行かれた。

(あの日の隼人の目は、今でも忘れられない。)

その後も救急車や保護者などで、
学校は、ずっとざわついていた。

【人のコンプレックス、バカにするべからず】
と、心に秘めたと同時に
知ってはいたが、隼人の内に眠る狂気も
垣間見た瞬間だった。

(伊織ちゃんが何より可愛そうだったな。)


それらが起こった後
自分が書いて
ヒロトに見せようとしていた
【詩】が
急にバカらしくなって
その日は、脳に強烈に【隼人】が
存在していた事もあってなのか。
気がつくと、彼を元に
私は別の文字を
ノートに落とし込んでいた。

帰りしなに私はそれを記した紙切れを
ヒロトに渡した。

「oh!happy birthday!」
と言って
ヒロトはその詩を、受け取って帰った。

夜にまたヒロトから電話があって

「星の書いた詩に、リフとメロディを付けてみたよ」
との事だったが、電話じゃ全然聞こえなかったのと
昼間のショッキングな出来事が忘れられないでいる私には、内容が全く入って来なかった。

「めっちゃパンクな歌詞!超良い!
これ絶対曲にしようよ!」

私は「あぁいいね」
と、気の抜けた返事をして
電話を切った。

どうしても隼人の事が気になっていた私は
夜に自転車で、彼に会いに行った。
普通に会えた隼人は寝巻きだったが
流石に凹んでいた。

「俺ってヤバいのかな?」
唐突な隼人の質問だった。

「やばいだろ!どう考えても。女の子だぞ?」
と言うと。

「だよね?ヤバいよね。
でも、何故か、我慢できなくなるんだよね。
しかも女ってさ、何か、むかつかない?」

今考えると、隼人も、女性に対してのコンプレックスみたいなものが、かなりあったのだと思う。
あんな良いお母さんがいて
女性へのコンプレックスがあるなんて
子供はどこにスイッチがあるかわからないものだが。

それに隼人は当時、女性に触れようモノなら
「汚い!」
と言って、すぐに石鹸で何度も自分の手を洗った。

それはそれで中々な光景でもあった。
きっと人知れない彼なりの苦しみも
そこにあったのかもしれない。

そんな彼も、ある事が起こって
女性不審を脱却した。

それは、俳優
窪◯◯介
の存在だった。

隼人は当時、地毛の天パで、元からツイストパーマをかけたような風合いの髪の毛をしていたのだが、それが窪◯◯介の役にそっくりだと。
学校中の女子が騒ぎ始めたのだ。

あっという間に隼人は
【学校一のイケメン】
に、認定された。

サッカー部の隼人は、ほとんど、私と一緒に帰宅していたのだが、それ以降、帰りは必ず女の子が2.3人同行するようになっていた。
あんなに隼人をバカにしていた女の子達も、
掌を返したように
「隼人〜隼人〜」
と言い寄ってくるようになっていた。

【女って、変な生き物。】
これが素直な中2の私の心だったが。

隼人が生き生きしている姿は私にとって
何よりも重要で、喜ばしい事だった。
【ソウルメイト】
という言葉があるが
当時、私のパラレルは
確実に隼人との時間だったに違いない。
私は隼人がどんなやつでも
受け入れれる準備が整っていた。それに
自分の魂の片割れのような存在の彼の
痛みは、同時に、
放っておいとく訳にはいかない程の
私の痛みでもあった。

その後
ヒロトの家で
夢中になって
【曲を完成させた】

青い炎を持つ隼人をイメージして
それに途方もない自分の劣等感を混ぜた詩。

それに、あんなにパンクだと言っていた
ヒロトのギターは
意外にも優しく
私達の詩を包み込んだ。

初めて
自然に曲が産まれた瞬間でもあった。

忘れないうちにそれらをカセットテープに録音し、私はそれを持ち帰った。

帰り際に隼人の家を通りかかると、
隼人の部屋の電気が点いていたので
また部屋を訪ねた。

「おーい!元気か?」

隼人は挨拶もせず
黙々とカセットテープを整理していた。

私「どうした?」

「いや、テープを探してるんだけど、見つからない。まぁいいや!」

「てか、また来たの?」
隼人は笑顔を取り戻していた。

「あぁ、何となくね。
これ、ヒロトと作ったんだけど、聴いてみる?」
と言って、私は先程のカセットテープを
ポッケから取り出した。

「いや、今はいいや。何か嫌な予感がする」

「なんだよ!嫌な予感って!失礼やな!」
私がそう言うと

「嘘。嘘。聴かせてよ」
と隼人は苦笑いで答えた。

隼人はコンポにカセットをセットして
テープが再生された。

チープなカセットコンポで聴く
ヒロトのイントロのギターリフは
どこかピアノのメロディのようで
ザラザラしたカセットテープの音と
天才パンク少年が弾くギター
劣等感を抱えた少年の歌と
衝動的な青い炎が
絶妙な
シンクロニシティを起こしていた。

聴き終わると隼人の背中がひくひくして
彼が泣いている事が分かった。

「隼人」

声をかける前に隼人が私を制してきた。
「ごめん、やっぱ今日は帰ってもらっていい?」

無理やり玄関まで私を追い返した隼人は
お休みの変わりに
私に
「ありがとう」
と言って
玄関の扉を閉めた。

隼人に余計な事をしてしまったのかは
今でも謎だが
大人になった彼の宝箱ケースの中には
【青い炎】
と書かれた、青いカセットテープが残っていた。


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