【詩】海中
ぼくたち生まれたときから、50音の海のなか。
ずっと溺れている。
溺れたとき、心臓のなかを海水がだんだん満たしていくみたいに、ぼくの身体のなかを言葉が満たしてゆく。そして、今も知らないところで、新しい言葉は生まれ、増え続けているから、それで、その言葉がぼくのなかにも、躊躇なく入り込んでくるから、この世界で、真面に呼吸なんてできるわけなかった。
ぼくたち溺れ続ける限り、ひとりになんてなれないよ。
溺れ続ける限り、ぼくはきみを見るしかなくて、きみもぼくを見るしかなかった、
そうして、藻掻きながら空気を求めるように、ぼくはきみを好きになって、きみはぼくを嫌いになる。
夜の水平線を見て、
誰かが沈んでいるかもしれない海を見て、
ただ「綺麗」と言うことしかできないぼくたち、
今も、50音の海のなか。