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五、退廃する絵画と死せる清廉に寄せて
きっと、それは描かれた通りの絵に過ぎない。
何が正しいのかを彼は知っていて、何をすべきなのかも彼は知っている。
何故なら、筆をとったのは彼自身なのだから。
五、退廃する絵画と死せる清廉に寄せて
煤けた床を彩った赤は、もはや彼が助からないことを突きつけてくる。無慈悲にも、静かに、終わりを告げてくる。
彼の描いた絵は美しかった。完成されていて、どこまでも冷えた鋭い秩序を持っていた。
その正
四、彼と世界と私の天秤
――英雄を失った世界は次に統治者を求めたのだ。それもまた、己の肉だというのに。
四、彼と世界と私の天秤
彼はその一人分の背中に、世界を背負っていたのだ。私がこうも切なく思うのは、彼がそれを苦痛に思っていなかったことだろう。
立場が変われば優先するべきものも変わる。私と彼は同じ天秤を持っていたが、掛けるものの重さが違った。
彼にとって世界は重すぎた。それが立場ゆえの責任だったのか、彼自身の世界愛
三、鑑賞者のバラード
狭い部屋の中、向かい合わせに座っている。折り曲げたお互いの膝が接触しそうだ。
二人きりになるのはいつ以来だろうか。この世界の時間の計り方なんて知らないのだけれど、随分久しぶりに感じる。
三、鑑賞者のバラード
私を睨んでいた彼が漸く口を開いたのは、部屋に入ってから――私の感覚で――たっぷり十分経ってからだった。
「お前は多くを知っていた。俺のことも、この先のことも、何もかも……最初、初めて会っ