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短い物語のようなもの
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五、退廃する絵画と死せる清廉に寄せて

きっと、それは描かれた通りの絵に過ぎない。
何が正しいのかを彼は知っていて、何をすべきなのかも彼は知っている。
何故なら、筆をとったのは彼自身なのだから。

五、退廃する絵画と死せる清廉に寄せて

煤けた床を彩った赤は、もはや彼が助からないことを突きつけてくる。無慈悲にも、静かに、終わりを告げてくる。

彼の描いた絵は美しかった。完成されていて、どこまでも冷えた鋭い秩序を持っていた。
その正

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四、彼と世界と私の天秤

四、彼と世界と私の天秤

――英雄を失った世界は次に統治者を求めたのだ。それもまた、己の肉だというのに。

四、彼と世界と私の天秤

彼はその一人分の背中に、世界を背負っていたのだ。私がこうも切なく思うのは、彼がそれを苦痛に思っていなかったことだろう。
立場が変われば優先するべきものも変わる。私と彼は同じ天秤を持っていたが、掛けるものの重さが違った。
彼にとって世界は重すぎた。それが立場ゆえの責任だったのか、彼自身の世界愛

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三、鑑賞者のバラード

狭い部屋の中、向かい合わせに座っている。折り曲げたお互いの膝が接触しそうだ。
二人きりになるのはいつ以来だろうか。この世界の時間の計り方なんて知らないのだけれど、随分久しぶりに感じる。

三、鑑賞者のバラード

私を睨んでいた彼が漸く口を開いたのは、部屋に入ってから――私の感覚で――たっぷり十分経ってからだった。

「お前は多くを知っていた。俺のことも、この先のことも、何もかも……最初、初めて会っ

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二、終わりの先

二、終わりの先

無に返った。そうは言えなかった。
私達は多くを失ったが、そこには残ってしまったものがある。

瓦礫の山。積もった雪のような灰。誰かがどこかで泣いている声。

「こんなはずじゃなかった、のにな」

二、終わりの先

呆然と膝を折った貴方の前には、無よりも残酷な世界が広がる。
ここは、終わった後の。戦って、生き延びて、手にした勝利の先。
けれど絶望する暇はない。

「望まなければならないわ。未来を」

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一、それに気づくにはあまりにも遅すぎた

一、それに気づくにはあまりにも遅すぎた

なんと、美しい人だろうか。

一、それに気づくにはあまりにも遅すぎた

彼がこんなにも美しい人だと、こうして対峙してみて初めて解ったのだ。これが傍らに居たのだと思うと、背筋がぞっとする。なんとも惜しいことをした自分を殴ってやりたい。

──何故、今まで気づかなかったのか!

きっと私は、酷く歪んだ顔をしている。柄を握る手は白く強ばり、まるで温度を感じない。
対して、彼は静かにそこに立っている。両手

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