一、それに気づくにはあまりにも遅すぎた
なんと、美しい人だろうか。
一、それに気づくにはあまりにも遅すぎた
彼がこんなにも美しい人だと、こうして対峙してみて初めて解ったのだ。これが傍らに居たのだと思うと、背筋がぞっとする。なんとも惜しいことをした自分を殴ってやりたい。
──何故、今まで気づかなかったのか!
きっと私は、酷く歪んだ顔をしている。柄を握る手は白く強ばり、まるで温度を感じない。
対して、彼は静かにそこに立っている。両手に持った戟を下ろすことなく、けれど目を逸らすこともなく。
「このような形であなたと交えることになろうとは……」
淡々と吐かれた言葉はまるで、終止符だった。
どうにもならない、これが現実なのだ。
彼はもう私のところへは帰らない。すべてを綺麗に断ち切って、戻ってはこない。
「あなたがこんなにも美しいと知っていたなら、あの時放さなかったのに」
後悔をちらりと零せば、彼は少しだけ寂しそうに笑った。
「気づかなかったでしょう。あなたは常に先を、進むべき先だけを見ている人でしたから。そんなあなただから愛しておりました」
嗚呼、そうだったのか。
思い起こす声、指先、視線。彼は美しかった、もうずっと前から。
それは。
「私に、恋をしていたからか」
今更、何もかも遅い。戦の音が近く、私を責め立ててくる。
彼を斬らねばならない。