アイヌの歴史22『中世日本とアイヌ』
日本の資料では鎌倉時代の12世紀頃から北海道が夷島という流刑地、つまり罪人を送る辺境の島として現れ、この周辺の管理はかつて陸奥国中部を支配した蝦夷系の安倍氏の子孫と思われる安藤氏が勤めており、この安藤氏はアイヌ達と盛んに交易を行なっていて、その交易の拠点となった十三湊は、巨大な港町となった。
ちなみに1268年には安東氏の安東五郎がアイヌの反乱で討ち取られており、この反乱についての詳細は不明だが、当時のアイヌは元王朝との戦争の真最中で、それが反乱に関係する可能性があるとされ、例えば元からの要請で安東氏がアイヌとの交易を引き上げた事に対する反乱のような感じだった可能性があるが詳細は不明である。
そしてこの事件を発端に14世紀初頭、「安藤氏の乱」もしくは「津軽大乱」と呼ばれる安東氏の内乱が発生、激しい争いを繰り広げ、この際に東北地方の日本人が多く、北海道の渡島半島に移住していったとされ、これにより渡島半島とアイヌが交易のために住んでいる外ヶ浜はアイヌと日本人が混在する地域となった。
また、1394年には北海動乱というアイヌの反乱があったとされるが詳細は不明である。
また、「諏訪大明神画詞」には日本海側のアイヌが唐子、太平洋側のアイヌが日ノ本、道南に住む日本語も話せる安東氏と貿易を行っているアイヌが渡党として記録され、この渡党は、日本人が流入してくる前の渡島半島に分布していた擦文文化と日本文化の混合体、青苗文化の人々の事であろうと思われる。
室町幕府による日本支配が行われていた15世紀、安東氏の支配下で交易都市十三湊は繁栄を極めており、渡島半島にも安東氏の家臣達が管理する交易拠点、道南十二館が設けられた。実際に道南十二館が十二個だったのかというと、十二の内に入っていない拠点なども発見されている事から必ずしも、そういうわけでもないが、一応、道南十二館に数えられる館は志苔館、宇須岸館、茂別館、中野館、脇本館、穏内館、覃部館、大館、禰保田館、原口館、比石館、花沢館で、現在まで都市として残っているのは宇須岸館のみで、宇須岸館は別名の函館が現在まで都市の名前として定着している。
しかしそんな中、東北では盛岡を拠点とする大名「南部氏」が拡大を続けており、安東氏は南部氏の圧迫で衰退、安藤義季を自害に追い込んだ事で、安東氏の本家を滅ぼした南部氏は、新たに分家の安東氏の安東政季を、アイヌとの交易に利用するために傀儡化しようとするが、安東政季は1454年に渡島半島に逃亡、南部氏と対立することとなる。
そのようなピンチの中、北海道では日本とアイヌ初めての本格的な戦争である「コシャマインの戦い」が発生、これには1449年の土木の変でモンゴル高原に残っていた元の残党、北元が明に攻め込み明の英宗が捕虜にされるという事件をきっかけに明王朝が弱体化、アイヌの重要な交易相手だった明がアイヌとの貿易を行えなくなった事で、もう一つの重要な交易相手である日本に全ての経済を頼らざるを得なくなっている状態の中で、統治者である安東氏が南部氏により本家が滅ぼされた事で弱体化した事が背景としてあった。
戦争の直接の原因は、記録が暫く後の物なので何処まで正確か不明だが一般的に、志苔館の日本人の鍛冶屋のマキリ、つまり小刀を注文したアイヌが価格に難癖をつけたのか何なのか、鍛冶屋と揉め、怒り狂った鍛冶屋がそのアイヌを刺殺された事であるという伝承のような話があり、これに渡島半島東部の族長コシャマインが他のアイヌの勢力達を率いて1457年5月に軍を挙げた。
コシャマイン率いるアイヌ軍はかなり広範囲で戦闘を行なっており、東は胆振地方の鵡川、後志の余市にまで及び、最終的には事件の発端である志苔館にアイヌ軍が終結し陥落させ、その後も進撃を続け道南十二館の内十を陥落させた所で、花沢館に使える武田信広という人物がコシャマインを現在の北斗市の七重浜で殺害すると、指揮系統を失ったアイヌ軍は瓦解、武功を上げた武田信広は勝山館を築城し蠣崎を名乗った。
コシャマインの戦いの以後、ショヤコウジ兄弟の戦い、タナサカシの戦い、タリコナの戦いなど多数のアイヌの攻撃が続き、これにより安東氏の影響が弱まり、次第にこれらの戦いの鎮圧に貢献した蠣崎氏(松前氏)が、アイヌとの交易を独占するようになった。
16世紀には蠣崎氏、そしてアイヌのチコモイタンとハシタインが安東氏の立ち会いのもと「夷狄の商舶往還の法度」というアイヌと日本の交易に関するルールを決め、これによりアイヌが独自に交易を行う事は無くなり、このルールに基づいて日本の商船から徴収した利益の一部をアイヌに与えるような形で貿易が行われることとった。
その後、蠣崎氏はそのまま、完全に交易を独占、これは戦国時代の日本を再統一した豊臣政権にも朱印状で公認され、秀吉の死で弱体化した豊臣政権を討伐し江戸幕府を開いた徳川氏にも黒印状で承認された。