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ファンタジーのお約束設定の解説 part1『ファンタジー・トロープとは / 善と悪の構造』


 あらゆる現代のファンタジーのゲームや文学作品、映画などには世界観やプロット、キャラなどにお約束、英語の概念で言う「Fantasy Trope」が存在します。
このファンタジー・トロープは色々とありますが基本的には全てがゲルマン神話、ギリシア神話、スラブ神話、ケルト神話、フィン神話などヨーロッパ各地の民話・神話に由来しています。

ゲルマン神話の黄金の林檎を食べて不死を維持する神を描いた絵

 これは、『指輪物語』などの作者であるイギリスのJ・R・R・トールキンが自らの作り出した独自の世界(*比喩ではなく言語や文字、歴史の細かな流れ、地図まで完全に整備されている)の作品に各地の伝承の要素を導入したためで、英語wikiではその重要性から『トールキンへの影響(https://en.wikipedia.org/wiki/Influences_on_Tolkien)』という記事が存在しています。 文学的なファンタジー作品ではそれらのトロープをそのまま使っていますが、他のエンタメ作品などではそれをもとにかなり異なる設定が描かれており、それらがさらに新しいファンタジー・トロープを生み出すこともあるわけです。

トールキン

 そんな中でも代表的なファンタジー・トロープとしてはやはり「善」とその土地を侵略する「悪」の対立構造でしょう。 これも元ネタは『指輪物語』で描かれたもので、ここではかなり深く善とは、そして悪とは何かまで掘り下げましたが、その後のファンタジーでは対立をあくまでも文学でいう「プロット・デバイス」、つまり物語を進行する際の仕掛けとして使うだけで、明確に善悪を区別しなくなっていきました。

最初期のプロット・デバイスを使った文学者エウリピデス

 その代表例が「ヒロイック・ファンタジー」あるいは「剣と魔法」と呼ばれる魔法が使われる架空世界でヒーローが悪と戦って勝つと言う、非常に一般的なファンタジーのサブジャンルの一つで、そこでは絶対的な悪と対立するというよりも、道徳的でない存在に対抗されるような構造となっています。

剣と魔法の先駆け「英雄コナン」

 ちなみに、「剣と魔法」はウィリアム・モリスなどの世界観を継いだクラーク・アシュトン・スミス、エドガー・ライス・バローズなどのファンタジーの中で活躍したロバート・E・ハワードが起源となって始まったジャンルですが、現在では「なろう系」が日本で栄えているため、この説明はわかりやすい人も多いのではないでしょうか。

モリス
バローズ
ハワード

 ヒロイック・ファンタジーやその他の架空世界で繰り広げられる「ハイ・ファンタジー」と呼ばれる作品では基本的に英雄的なキャラクターが物語の主軸であり、ほとんどのキャラクターは身体的にも道徳的にも通常よりも高い能力を保持している場合が多く、また、英雄的主人公が定められた役割によって成長していく様子が描かれ、これは文学で言うと所のゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』、トーマス・マンの『魔の山』、ヘルマン・ヘッセの『デミアン』のようなキャラの成長を描くドイツ文学に特徴的だった「教養小説(Bildungsroman)」に当てはまります。

教養小説を提唱したディルタイ

 また、これはある意味ネタバレ的な話ですが、主人公が王家の血を引いている人物で、最後王になったりすると言う場合は非常に多く、一般的にこれらの物語は最初虐げられた主人公が自分の道を見つけていく流れですが、これらは精神分析で言うところの読み手の無意識な願望充足(wish-fulfillment)を反映したり、物語の主人公の成長した内面の価値・奥深い変化を象徴的に書いたりする効果があるともされます。ちなみに『指輪物語』では王家の血を継いでいる奴は主人公ではありません。

精神分析を創始したフロイト

 そして、トロープの善悪構造の中でも「ダークロード(Dark Lord)」つまり悪の親玉的な存在が登場する場合は多く、大抵の場合ダークロードは男性で、強大な魔力を持って大軍を統率しており、キリスト教の「悪魔」のような性質を感じさせる究極の悪の擬人化です。

ミケランジェロが描いた悪魔

 中世ドイツの叙事詩をもとに作曲家・劇作家のリヒャルト・ワーグナーが作った楽劇(クソ長いオペラ)の『ニーベルングの指輪』の巨人と小人によるニーベルンゲンの統率者アルベリヒ(Alberich)がその原型とされます。

ニーベルングの指輪のドワーフ(アーサー・ラッカム作)

 世界的に著名なダークロードは多くいますが特に『指輪物語』のサウロンやその先代に当たるモルゴス、『スター・ウォーズ』のダース・シディアスやダース・beベイダーなどのシス、『ハリー・ポッター』のヴォルデモート、『ゼルダの伝説』のガノンドロフ、DCコミックス作品(スーパーマンやバットマンなど)のダークサイド、マーヴェル作品(アイアンマンやスパイダーマンなど)のサノス、『悪魔城ドラキュラ』のドラキュラ、『ソウルシリーズ』のナイトメア、『英雄コナン』のタルサ・ドゥーム、『ライラの冒険』のメタトロン、『ファイナルファンタジーV』のエクスデスなどが代表的と言え、こう例をあげると日本のファンタジーが世界を侵食した様が伺えますね。

サウロン
ダースベイダー
サノス
ヴォルデモート

 

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