国宝《古今和歌集(元永本)》で平安時代の優麗な筆跡を愛でて来ました……@東京国立博物館
東京国立博物館(トーハク)の本館2階の国宝室には、先週まで《古今和歌集(元永本)下帖》というのがポツン……と、展示されていました(三井高大氏寄贈)。
誰もが知る、というか聞いたことのあるだろう「古今和歌集」は、日本で最初の勅撰……天皇の命によって選ばれた和歌集です。醍醐天皇から、紀貫之さんたちに命が下って、編纂が始まったのが延喜5年…905年7月4日…のこと。以来、古今和歌集を書き写した多くの写本が作られます。
トーハク所蔵の《古今和歌集(元永本)》もその一つ。「元永本」という通称にあるとおり、作られたのは元永三年(1120年)……平安時代の末期……平清盛が生まれた2年後のことで、古今和歌集の現存最古の写本です。
筆をとったのは、三蹟の一人藤原行成の曾孫である定実(~1077~1119~)と推定されています。解説には「流麗な筆遣いと文字の配置が料紙の装飾と調和しています」とあります。
その料紙……文字が書かれた紙は、和製の唐紙…中国風だけれどmade in Japanの紙が使われています。表には唐草・菱・亀甲などの型文様が、見る角度によってキラキラとする雲母(きら)で摺り出されています。また、見ることはできませんが、紙の裏には金銀の砂子や切箔・野毛などを撒いてあるそうです。
そうして書かれた紙を紐や糸で綴じ合わせた綴葉装(てっちょうそう)と呼ばれる冊子本として、上下の2冊に仕上げられています。今回の下帖とは、今風に言えば下巻ですね。つまりは本になっているので、展示の際に見られるのは見開きの2ページのみ。絵巻のようにザザ〜っと見られるといいのですが、見られません。
パッと見て分かるのは、その紙の美しさですね。上述したとおり、光の当たり具合によって文様がクッキリと浮かび上がったり、またはしたためられた文字の方が浮かんできたりします。
でも……いつも思うのですが、こうして綺麗な紙に書かれた流麗な文字が、同じ日本語のはずなのに、さっぱり判読できないということです。解説に書いておいてくれれば良いのに…とも思いますが、展示するたびに季節などにあったページを開いているため、おそらく毎回解説パネルを作り替えるのが手間過ぎる…という気持ちもよくわかります。
とはいえ、書かれているのは「古今和歌集」に書かれた1111首前後と決まっていますから、調べようと思えば、調べられなくもありません。しかも今回の歌は、上の句の最初が「きみをのミ」と、比較的に読みやすいです。
そうして調べると、今回は以下の歌が記されていることが分かります。
右ページ《古今和歌集 00979》
かへし(返し)
(宗岳)大頼
きみをのみ おもひこしちの しらやまは
いつかはゆきの きゆるときある
(けっして変わらないと思っている、わたしのあなたへの思いも、いつかは溶けて消える白山の雪のように、わたしの心の中からも消えてしまうのだろうか)
左ページ《古今和歌集 00980》
[詞書]こしなりける人につかはしける
きのつらゆき
思ひやる こしのしら山 しらねとも
ひと夜も夢にこえぬよそなき
(あなたがいる越の白山へは行ったことがないけれど、いつも夢でその山を越えて行っていますよ)
詞書には「越の国……今の北陸地方に赴任した人に贈った」と記されています。今回の古今和歌集の選者の一人である紀貫之が、友人へ贈った歌だといいます。もしかすると、友人から紀貫之さんへ「早く都へ帰りたいよぉ」と、歌が送られてきたのかもしれません。そんな友人を励ますために、わたしはあなたのことを忘れずに思っていますよという気遣いの歌……かもしれませんね。
冒頭にも記しましたが、国宝室は今週展示替えがあり、現在は《古今和歌集(元永本)下帖》は見られません。
その代わり今季のトーハクは、「万葉集」を絶賛特集中です。国宝室では、もちろん国宝の《元暦校本万葉集》3冊が観られるほか、次の部屋でも、散り散りになった万葉集の断簡がいくつか見られます。
場所が少し離れますが、江戸城……皇居三の丸尚蔵館でも、同じく五大万葉集の一つとして挙げられる国宝《金沢本万葉集》が展示されています。ここは館長さんが……トーハクにも居た方で……古蹟の専門家だったと思います。そのためもあって、丁寧な展示をされているんじゃないかなぁと。見に行ってみようかなぁとも思います。
ただ、どちらもも綴葉装(てっちょうそう)なので見られるのは見開き1ページのみ……。それは仕方のないことなのですが、どうせ展示するのなら、もっと「万葉集」や「平安の書」自体に興味を抱かせるような工夫がほしいところです(←何様ですか?)。特にトーハクは美術館ではないのですから、見開きのたったの1ページだけを見せて「ほらキレイでしょう?」という展示方法は博物館的にどうなんでしょ? とも思いますが……いやもう展示替えするだけで激務なのはよく分かるので、工夫しろよと思いつつも、工夫する余裕なんてないよね……とも思います。
ということで、今回のnoteは以上です。