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傷だらけのパルピテーション

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#小説

Green point of view 8

 少しだけあったかくなってきたから、今日はどこかのカフェでランチをすることにした。俺は普通にハンバーガーとか、ラーメンとか、ジャンキーな食べ物も好きだけど、たまにはこういうオシャレな感じも良いかなと思う。何ていうかいろんな意味で、意識が上がるような気がする。世の中はもう卒業シーズンだ。大学もとっくに春休みに入っているし、自由にピアノを弾くか、バイトをする以外にやることもない。ああ…… でも女の子と

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Yellow point of view 8

 青詩くんから「大丈夫。」と返信が来て、ぼくは少しだけほっとした。青詩くんに言われたとおりに家の近くの公園で待っていると、夜の色がどんどんと濃くなっていく。ブランコに座っているぼくは、キーキーと音を立てながらブランコをかすかに動かす。
「待たせた! ごめん!」
息を切らして青詩くんがやってきた。そして、隣にはなぜか見覚えのある綺麗なお姉さんも一緒にいた。
「黄依ちゃん? 初めましてよろしくね。わた

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White point of view 9

 親には感謝していないわけではなかった。だってピアノと、今生きているこの環境をくれたわけだから。わたしは今やっと呼吸できている。でもすべて忘れられるわけではない。でも何か形で示しておかないと、自分の存在価値も見失ってしまいそうで怖かった。だからわたしはコンクールに出る。親への孝行でもあり、自分のためでもある。凛と静まりかえった会場で、わたしは雫を落とすように、清らかにささやかにピアノの前へと出た。

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Red point of view 8

 厳しい寒さが続いたある日、わたしは緑くんといつも待ち合わせていたあの駅で、マフラーに手袋の完全防備な姿で立っていた。行き交う人々は底知れぬ不安をかすかに漂わせて、景色にとけ込んでいく。
「朱里…… ごめん。全然連絡できてなくて」
懐かしい緑くんの声で、わたしはちゃんと世界を生きているにことに気づいた。
「ううん…… いいの。なんとなくわかってたから……」
「ごめん…… じゃあとりあえずどこかカフ

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Blue point of view 8

「どう? 落ち着いた?」
彼女は俺を覗き込むようにして、濃く深い茶色の髪を揺らす。
「うん。少し……」
「君は本当にがむしゃらだね」
「そんなことない…… ただ、いまのこの状況を変えたいだけだよ」
「だからあの星を壊すと?」
「ああ…… そうしろって何かに訴えかけられているんだ」
「逃げるの?」
「え? 誰がそんなこと?」
「だって、そういうことでしょ。現状から目を背けて逃げたいってことでしょ? 

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White point of view 8

 わたしは美しいものが好きなんだ。だからただ美しいものに触れていたい。美しいものと触れ合っていると、自分が磨かれていくような気がするから。わたしが緑くんと触れ合いたいのもそのせいだ。それはどうしようもない甘美な誘惑で、わたしはその熟れたメロンのような香りに誘われて、緑くんのもとに行ってしまう。美しく繊細な緑くんの感性に触れたとき、わたしは蝶になれる。世界を新たに想像できるようなそんな気がする。蝶に

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Green point of view 7

「もっと俺を見てくれよ……」
「見てるよ…… わたしもう緑くんの前ではドロドロに溶けて、緑くんとひとつになってるよきっと……」
「俺の願いを見ていてくれ…… 真白ちゃんならきっと汲み取ってくれると思ってた」
「うん。感じてた。だって緑くんの思いは、いつだってキラキラと溢れ出していたから……」
俺たちは裸で抱き合いながら、むき出しの願いをぶつけ合っていた。分かりあおうとしてぶつかり合うから、すごくま

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Red point of view 7

 すっかり寒くなって、登校するのにマフラーをする季節になった。わたしはなんとなく学校に通って、なんとなく毎日を過ごしている。これがすごく平和で、すごく幸せなことだってわかっている。だけれど決してあの日々が消えるわけでもないし、心に染みついたあざもそのまま消えることはなかった。すっきりとした寒さの中、少し白くなる息を吐きながら、わたしはいつものように電車に乗り学校を目指した。今年の授業はもう今日で終

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White point of view 7

 いつからだろう。この世界に対してあきらめ始めたのは…… わたしは少しだけ敏感なだけだと最初は思っていた。でもそれは、もっとめんどくさくてつらいことだった。見えない何かにいつも怯えていたわたしは、目まぐるしく過ぎる日々を過ごすだけでやっとだった。絶え間なく降り注いでくるありとあらゆる刺激は、わたしの心を傷だらけにしていった。わけもなく突然心がざわつき出したり、なぜか泣いていたり…… きっとそんなこ

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Blue point of view 7

「君大丈夫? それ持ってきちゃったんでしょ? きっと探してるんじゃない警察の人」
紺色のコートの女は、疲れてガードレールにもたれて休む俺の隣に来て言った。
「ああ。でもいいんだ。あれを壊すのには必要なんだ」
「あー、だから壊したって意味ないって言ってるじゃん」
女は呆れたようにそれでいてすごく優しく包み込むように、俺に言う。
「だって、あれが呼びかけてきたんだ。壊せって」
「どうかしら。それってあ

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Yellow point of view 7

 青詩くんとはぐれてしまったぼくは、一人喧騒の中を流されていた。あちこちで飛び交う行き場のない言葉たちは、うねりのようにぼくを襲う。ぼくは、華やかなネオンに照らされた人々の群れの残像に怯えながら、一人カフェの入り口でしゃがみこんでいた。あたたかい暖色のライトが灯ったそのカフェは、砂漠で見つけたオアシスみたいだった。ぼくはズボンのポケットに入れてきた千円札を取り出して、大きな銀色のベルのついたカフェ

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White point of view 6

 きっとその音は子守唄にもなっていなかった。ポツポツと不規則なリズムを立てて落ちる点滴の音は、世界の始まりから世界の終わりまで続くかのようにわたしを支配していた。でも安らぎとも絶望とも違う不思議な静寂が、そこにはいつもあった。すりガラスの窓からは、存在するであろう外の世界が濁って見えていた。わたしは、二日に一度くらい訪ねてきてくれる人が、母だとしばらくしてから知った。すごく優しそうにでも事務的にわ

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Red point of view 6

「あーあ」
深い青に染まった空を見上げながら、わたしはつぶやいた。
「何だよ」
理久はどこかに投げつけるように言う。
「何か戻ってこれた。少しの間かもしれないけど……」
「少しじゃないよきっと。俺がもっと戻してやるよ」
「でもきっと、また退屈しちゃうだろうな。それが幸せなのかもしれないのに……」
「大丈夫だよ。逃げなくてもごまかさなくてもいいように、つまんない日常で塗りつぶそうぜ!」
「何それ。で

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Green point of view 6

 ひたむきさはやっぱり苦手だ。何だか今まで自分が避けてきたものを、突きつけられるような気がする。本当は何か欠けてしまっているのも、何となく気づいていた。そしてそのいびつな穴は、無我夢中で必死になって向き合わないと埋まらないんだということも、何となく気づいていた。でもそれにはものすごいエネルギーがいるし、全力で生きる覚悟が必要だ。おまけにそれでも穴を埋められなかった時には、きっと二度と立ち上がれない

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