Red point of view 7

 すっかり寒くなって、登校するのにマフラーをする季節になった。わたしはなんとなく学校に通って、なんとなく毎日を過ごしている。これがすごく平和で、すごく幸せなことだってわかっている。だけれど決してあの日々が消えるわけでもないし、心に染みついたあざもそのまま消えることはなかった。すっきりとした寒さの中、少し白くなる息を吐きながら、わたしはいつものように電車に乗り学校を目指した。今年の授業はもう今日で終わりだ。今年最後の登校日を讃えるように、ハラハラと小さな雪が降ってきた。わたしはそのぼんやりとした淡い雪を、全身で受け止めるように浴びながら、いつものように校門をくぐった。理久がやってきて、わたしの横に並ぶ。
「おはよう! 今日もちゃんと元気そうだな!」
「まあね」
「そっか。たまにはもっと楽しそうに返事してくれよな」
笑いながら、少しおどけて理久は言う。
「何それ。できないよそんなの」
「まあいつも通りならいいんだけどな!」
「いつも通りだよ。何もなくて、退屈しておかしくなりそうなくらい」
「クリスマスが近いからって、またあの大学生に連絡するんじゃないぞ!」
「えー。何か理久お母さんみたいだよ? はは」
「心配してるんだよ。また、あいつに振り回されないかって」
そう言うと理久はわたしの手をこっそりとつないで、自分のコートのポケットに入れる。
「大丈夫だよ…… 緑くんが連絡くれるまで、もうわたしは何もしないよ。ありがとう理久……」
「ならいいけど! 俺だっているんだからな! 優花も! じゃあ教室でな」
理久は恥ずかしそうに雪の中をかけて先に行ってしまった。淡い雪が光を反射して、キラキラと世界をきらめかせる。理久の足跡が、わたしを未来へ導くように続いている。最近はあの星も、時々いたずらにわたしにまとわりついてチカチカするくらいだ。
わたしは理久の純粋さとまっすぐな力にひかれるように、歩みを進める。でもわたしは嘘をついていた。まだ緑くんとは連絡を取っている。わたしは、緑くんの止まり木になってあげたかったんだ。緑くんと一緒にいるときはわたしも一緒に休むことができるから。理久の優しさに惹かれながら、わたしは緑くんの揺らめきに惹かれ、心が二つに分かれたようにただただ彷徨っていた。でもその心の漂流があのことから目をそらさせてくれて、わたしは何とか日々を消化していっている。きっと矛盾に救われることだってある。二つの思いや二つの願いはぶつかりあって、絡まりあってどこへ行くのだろう。わたしはその二つの生き物に乗って、自分を泳がせているのかもしれない。切って貼ってを繰り返すみたいに、わたしの心は狂ったように矛盾を渇望した。そしてわたしはなぜだかクスっと微笑んだ。それだけが、わたしにできる精一杯の祈りだっていうみたいに……

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