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2017年10月の記事一覧
Red point of view 7
すっかり寒くなって、登校するのにマフラーをする季節になった。わたしはなんとなく学校に通って、なんとなく毎日を過ごしている。これがすごく平和で、すごく幸せなことだってわかっている。だけれど決してあの日々が消えるわけでもないし、心に染みついたあざもそのまま消えることはなかった。すっきりとした寒さの中、少し白くなる息を吐きながら、わたしはいつものように電車に乗り学校を目指した。今年の授業はもう今日で終
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いつからだろう。この世界に対してあきらめ始めたのは…… わたしは少しだけ敏感なだけだと最初は思っていた。でもそれは、もっとめんどくさくてつらいことだった。見えない何かにいつも怯えていたわたしは、目まぐるしく過ぎる日々を過ごすだけでやっとだった。絶え間なく降り注いでくるありとあらゆる刺激は、わたしの心を傷だらけにしていった。わけもなく突然心がざわつき出したり、なぜか泣いていたり…… きっとそんなこ
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「君大丈夫? それ持ってきちゃったんでしょ? きっと探してるんじゃない警察の人」
紺色のコートの女は、疲れてガードレールにもたれて休む俺の隣に来て言った。
「ああ。でもいいんだ。あれを壊すのには必要なんだ」
「あー、だから壊したって意味ないって言ってるじゃん」
女は呆れたようにそれでいてすごく優しく包み込むように、俺に言う。
「だって、あれが呼びかけてきたんだ。壊せって」
「どうかしら。それってあ
Yellow point of view 7
青詩くんとはぐれてしまったぼくは、一人喧騒の中を流されていた。あちこちで飛び交う行き場のない言葉たちは、うねりのようにぼくを襲う。ぼくは、華やかなネオンに照らされた人々の群れの残像に怯えながら、一人カフェの入り口でしゃがみこんでいた。あたたかい暖色のライトが灯ったそのカフェは、砂漠で見つけたオアシスみたいだった。ぼくはズボンのポケットに入れてきた千円札を取り出して、大きな銀色のベルのついたカフェ
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きっとその音は子守唄にもなっていなかった。ポツポツと不規則なリズムを立てて落ちる点滴の音は、世界の始まりから世界の終わりまで続くかのようにわたしを支配していた。でも安らぎとも絶望とも違う不思議な静寂が、そこにはいつもあった。すりガラスの窓からは、存在するであろう外の世界が濁って見えていた。わたしは、二日に一度くらい訪ねてきてくれる人が、母だとしばらくしてから知った。すごく優しそうにでも事務的にわ
もっとみるRed point of view 6
「あーあ」
深い青に染まった空を見上げながら、わたしはつぶやいた。
「何だよ」
理久はどこかに投げつけるように言う。
「何か戻ってこれた。少しの間かもしれないけど……」
「少しじゃないよきっと。俺がもっと戻してやるよ」
「でもきっと、また退屈しちゃうだろうな。それが幸せなのかもしれないのに……」
「大丈夫だよ。逃げなくてもごまかさなくてもいいように、つまんない日常で塗りつぶそうぜ!」
「何それ。で
Green point of view 6
ひたむきさはやっぱり苦手だ。何だか今まで自分が避けてきたものを、突きつけられるような気がする。本当は何か欠けてしまっているのも、何となく気づいていた。そしてそのいびつな穴は、無我夢中で必死になって向き合わないと埋まらないんだということも、何となく気づいていた。でもそれにはものすごいエネルギーがいるし、全力で生きる覚悟が必要だ。おまけにそれでも穴を埋められなかった時には、きっと二度と立ち上がれない
もっとみるBlue point of view 6
不思議な羽音がする。永遠に繰り返されるかのように、その音はまとわりついてくる。
「だいじょ…?」
羽音がだんだんと、大きくなってくる。なんだかすすけたような匂いもする。
「だいじょうぶですか?」
誰かの声が聞こえる。羽音はだんだんと扇風機の音に変わっていった。
「大丈夫ですか?」
3人の警察官が、ゆっくりと重なって一人になって、焦点がピタリと合った。
「気がつきましたか?」
少しとまどったような
White point of view 5
緑くんは微笑みながら、わたしにそっと手を差しのばすような優しさをくれる。笑いながらパスタをフォークで巻き取るその仕草がきれいで、わたしの鼓動はカラフルな音色を奏でる。
「やっぱり真白ちゃんはいいね。なんかすごい柔らかい雰囲気作ってくれるよね?」
「ほんとー。そうかな?」
「うん。めっちゃ楽だよ。俺こんなんだからさ。よく軽いって言われるけどさ。ほんとはそんなことないんだよ」
「わかる気がする。緑く
Yellow point of view 6
行き交う人々は、誰も周りを見ようとしない。みんなそれぞれの世界に閉じこもり、この世界を見ることを拒絶しているようだ。携帯の画面を覗き込む人、それぞれの行き先へ急ぐ人、ガムを噛みながらヘッドホンをして歩く人。みんな自分以外何も見ようとしていない。
「青詩くん……」
ぼくはそうつぶやいて、ビルの壁にもたれかかった。青詩くんとはぐれてから、もう2時間くらい経つ。もう再び会えることはないんじゃないかと不
Red point of view 5
「あー気持ち悪い。」
こんなわたしも、こんなわたしの生きてる世界も。もうしばらく学校にも行けていない。どうでもよくなったんだ。正常に動いていた毎日が、突然ひとつの歯車が抜けてバラバラに崩れ去った。緑くんにそんなに期待していたわけではない。緑くんからはたくさんの女の子の気配がした。きっといっぱい遊んでるんだろうなと思っていたし、知っていた。でもなぜだか、緑くんはわたしの生活の中にいつの間にか組みこま
Green point of view 5
久しぶりに実家に帰った。まあ実家って言ってもそんなに遠くないし、帰ったって感じはしないけど。相変わらず誰もいない。写真だって一枚も飾っていない。全てが作り物のようなはりぼての城。父親はずっと海外で働いてるし、母親も俺のことなんか何も気にしていない。自分の思い通りに育てようと、ありとあらゆることはさせてくるくせに、俺の気持ちになんてちっとも気づいていない。きっと音大に通わせたのだって、俺をピアニス
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そびえ立つビルの中を俺と黄依は歩いている。通り過ぎて行く人々は、みんな早足にすれ違って行く。ビルについているスクリーンでは、たくさんの広告が繰り返し流されている。大きな交差点を人々は狂ったように群がって渡っていく。その時あのいびつな星が、あちこちで一瞬だけきらめいた。
「あっ」
俺はそう言うと、あちこちでちらつくその星を探して駆け出してしまった。もう少しだ。あれを壊せば、きっと沙羅は戻ってくる。
White point of view 4
大学の中庭の木々は、すでに真っ赤に染まって、命を終えた葉っぱたちは、ひらひらと最後のダンスを踊って地面に落ちていく。わたしは赤や黄色に鮮やかに染まった中庭で、自動販売機で買ったホットミルクティーを飲みながら、一人で歩いている。今日は休みだということもあって、校内にはあまり人がいない。落ち葉を優しく踏みしめながら、わたしは練習棟を目指していた。休みでも学校にある良いピアノで練習がしたかったんだ。あ
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