Yellow point of view 6

 行き交う人々は、誰も周りを見ようとしない。みんなそれぞれの世界に閉じこもり、この世界を見ることを拒絶しているようだ。携帯の画面を覗き込む人、それぞれの行き先へ急ぐ人、ガムを噛みながらヘッドホンをして歩く人。みんな自分以外何も見ようとしていない。
「青詩くん……」
ぼくはそうつぶやいて、ビルの壁にもたれかかった。青詩くんとはぐれてから、もう2時間くらい経つ。もう再び会えることはないんじゃないかと不安になってきて、ぼくは気力を失っていた。空をかけていた透明な動物達も、もうぼくには見えなくなってしまった。きっと彼らは墜落してしまったんだろう。携帯のバイブ音がして急いで携帯を見ると、お母さんからメッセージが来ていた。「黄依今どこにいるの? お母さん今日はもう帰ってきたよ。ご飯食べよう? 熱はもう下がったの?」質問ばっかりだ。ぼくは「大丈夫」とだけ返信して、青詩くんをまた探し始めた。夜の街の光がぎらついて、ぼくの心を駆り立てる。くすんで濁った人間みたいなこの街の匂いが、徐々に緊張感を高めていく。ぼくはなんで青詩くんを探しているんだろう。ぼくはなんでこんなに夢中なんだろう? ぼくはなんでこんな世界にいるんだろう? あれ? 思い出せない。だから青詩くんを探すのか。青詩くんだけが、ぼくをここに繋ぎとめておく錨のようなものだから。ぼくは、黄色いバラの花束を持っている紺のコートを着た茶色いミディアムヘアの女性とすれ違った。ふんわりとなびく女性の髪からは、どこか遠い国にしか咲かない花みたいな匂いがした。

   ぼくは少しだけめまいがした。とても爽やかなめまいが。

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