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暁☆ゾンビ~ズ/連載エッセイ vol.57

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.59(2010年・第4号)」掲載(原文ママ)。

いやはや今年の岩手の夏は激しい。
というより、昨日『梅雨明け』したばかりなので、本格的な夏の到来がこれからである事を考えると、正確には『不思議梅雨』だったと言うべきか…。

北東北以外にお住いの読者の方には想像がつきにくいかもしれないが、我々にとって、この時期『暖房器具』は不可欠である。

毎年、期間中1~2日は朝晩冷え込み、ストーブなど『冬アイテム』のお世話になるのが常で、日中顔を合わせた際には、『いや~早まって暖房を片付けずによかったですね~』などと、互いの『ズボラ精神』を天候になすりつけて自己正当化し合う挨拶が飛び交うのが、北国の梅雨の風物詩なのである。

ところが今年の梅雨は暑かった!!

ストーブが必要な状況は終に訪れず、むしろ全国の県庁所在地の最高気温を記録する事があったとかなかったとか…。

前述の『ズボラ~達』を嘲笑うかのように、連日猛暑が続いた。
まとまった雨も、梅雨明け間際に数日降っただけで、あとはスコールのような夕立のみ。

これが所謂『地球規模』の気候変動の影響なのか、一時的なものなのか…さすがに不安になる『文月』であった。

今年は降水が少なかった分、特にであるが、私達北国の住人にとって、西日本の『水災害』のイメージは正直つきにくい。
それは彼の地の方々が、我々の冬の苦難を想像しがたいのと同様だ。

しかしながら私自身、これだけ日本列島を頻繁に縦横断するようになると、期せずしてその猛威の一端に触れることがある。
といっても、私が西日本にいる時は、殆どが朝から晩まで建物内にて講義している事が多いので、トラブルは移動中に遭遇する事となる。

特にも在来線(もしくは、それを用いる特急列車)は大雨の影響を受けやすい。

ヒドイ時には、数日間にわたる研修講師の大役を終え、その後の食事会で美味しい瀬戸内の海産物とアルコホ~ルを堪能し、ヘロヘロになって飛び乗った夜行寝台列車で爆睡したところ…。

川の氾濫で線路が水浸しになって列車が先へ進めなかったらしく、明け方に『そろそろ東京周辺かな~』と呑気に目を覚まして窓の外を覗くと、昨晩酔っぱらったマナコで焦点が合わないながらも『目視発車確認』したはずの見慣れた駅ホームの光景が、寸分違わず眼前に広がる…という一寸した『イリュージョン』に見舞われ、思わず狐や狸に化かされる昔話の登場人物の気分を追体験した事もあった。

(その時は結局、新幹線を乗り継いで帰県…。
 座り過ぎでお尻が割れるトコであった…
 …十字に!!)。

それに比べると、岩手から首都圏へ移動する際に、天候の影響でヒドイ目にあった事は、殆どない。

新幹線は元々、多少の雪は掻き分けて進めるように設計されており、高速道路も東北地方の限られた『動脈』を死守すべく万全の対策が取られる。

『研修は始まった…しかし講師がいない』

…という状況を最も危惧する私としては、有難い限りである。

そしてあの夜も、移動に関する不安を微塵も抱かぬまま、いつもの高速深夜バスに乗り込んだ。
その先に待ち受ける『ホラ~な光景』の存在も知らずに…。

そう、長距離移動の敵は、天候だけではないのである!!

異変は既に、消灯された通路を手探りで進み、座席について間もなく確認された。

最終乗車地である某駅ロータリーを、バスはエンジンを唸らせ、巨体を揺すりながらゆっくりと出発する。

『ウィィィィ~ン』

運転手はいつもよりローギアを引っ張っているようだ。
その晩は週末である事も影響して満席。
バス自体の重量と乗客の体重で相当な重さになっているのだろう…。
最初は気にも留めていなかった。

しかし…それにしても各ギアを引っ張り過ぎの様な気がする。
いつもなら乗り込んで数分で眠りに墜ちる私もさすがに気になり耳を澄ませる。

『ウィィィィ…ヒヒ…ヒィィィィ~ン』

明らかにエンジンが金切り声をあげ始めている。
加えて『ガガガクンッ』とギアチェンジの度に車体が大きく前後運動を繰り返す。

『おかしい…。』

思わず脳裏に『深夜バス、高速道路上で炎上』という新聞見出しが過ぎる…。

『いやいや!!』

私は自身が抱いたネガティブイメージを必死で振り払う。
もしかしたら今晩の運転手さんは実は優秀で、バスという『マシン』の限界能力を探っているのかもしれない。
そう、F1ドライバーが通常の乗用車を運転する際、その車の持つ最大限のポテンシャルを引き出すように…。

そんなこんなする内に、バスは高速道路へ入り、エンジンは相変わらずいつもより半音高い声を轟かせつつも、ギアチェンジが少なくなった分、比較的安定した走行を取り戻していた。

『明日の講義に備えて眠らねば…。』

若干の焦りを湛えつつ、瞼を閉じる。
そして、ようやく微睡の向こうのお花畑が見え始めた頃…、何やら人の話し声が聞こえた。

最初はヒソヒソと…。
しかし断片的に続くソレは、徐々に『有声音』へと変わってゆく。

真っ暗な車内に響くその声曰く、『さすがにもうヤバイ』だの、『イヤ、もう少し粘ろう』だの…。  

どうやら乗務員同士が、誤魔化しきれない車体の状況に直面して、今後の対応を協議している様子。
しかも会話は『停める停めない』で徐々に白熱している模様。

『ドッシェ~!!今になって焦んなよ!
 ってか揉めんなよ!!
 ってか乗客に聞こえないようにやれよ~!!!』

身動きもままならないリクライニングシートの上で、私はまんじりともせず状況を見守るしかなかった…。
甲高いエンジン音が轟く…。

『ウィヒィ~ン…ウィヒィ~ン……ZZZ…。』

ふと、意識が戻る。
どうやら少しの間、眠っていたようだ。
どこで途切れたか、自分の記憶を必死で繋ぐ。

しかしその作業が終わらぬ内に、異変に気付く。
『…エンジン音がしない…バスが停まっている!!』

すると間髪いれずに車内アナウンスが響く。

『え~…バスは現在
 ○○サービスエリアに停車しております。
 「都合」により
 お客様には隣りに停めてあるバスへと
 移動して頂きます。
 大変ご迷惑を掛けますがご協力願います…。』

音もなく立ち上がった乗客は皆一様に、うなだれ肩を落とし脱力した身体を左右に揺すりながら歩を進める。

暁の仄暗い光の下、一切の無駄なく一直線にバスとバスを繋ぐ亡者達の葬列。
その虚ろな瞳が見つめるのは、前を往く者の踵か、はたまた見そびれた夢か…。

言葉にならない叫びは、頭の中に流れる荘厳なバロック音楽によって掻き消される…。
その光景は、ある意味どんなホラー映画よりも背筋の凍るモノであった…。

そして…新しいバスの椅子に身をもたれ掛け、すぐさま薄れゆく意識の中で私は思う。

『エッセイのネタ、ゲット!!
 …それにしても
 移動ネタ、多過ぎやしねぇかな…』と。


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