【採用ブランディング自社事例】フィットする人材と出会うためにやったこと。
近頃、新規のお問い合わせ内容で採用課題に関するものが増えてきました。
また、普段からブランディングのサポートをさせていただいているクライアント様からも採用に関するご相談をよくいただきます。
そのため今回の記事では採用ブランディングのステップや取り組む内容を簡単にまとめていきたいと思います。
クライアントさんの事例を公開することはできないので、自社での事例を元に解説していきます。
1.ビジョンと現状の差分を明確にする
まずは「何のために(Why)」「どんな姿を目指すのか(WIill)」をまずは明確になっていること。これがあやふやでは尖った戦略やコンテンツを作成することができません。
もしまだ言語化されていなかったり、腹落ちできていない場合はここを明確に言語化することからプロジェクトが始まります。
上記が明確になることによって、「自社が今後も大切にしていきたい確固たる価値観」も併せて言語化することができます。また、そこからビジョンと現状の差分を整理し、今後会社としてどんな課題を向き合っていかなければならないのか、に関しても必然的に浮かび上がります。(課題の優先順位も明確にする。)
この時に重要なのが、課題をただ把握するだけでなく、必ずプロジェクトに落とし込むことです。言うは易しで実際に行動に移さなければ何の意味もありません。むしろ大きなことを言っておきながら、何も行動に移せていなければ信頼は失われていきます。そのため各プロジェクト単位でも「ミッションを言語化」して、さらに細かくタスクを整理していくことが大切です。
簡単にまとめると、以下の内容を丁寧に実行していきました。
会社のMVV(ミッション/ビジョン/バリュー)見直し
具体的な状態を示す中期ビジョンを立てる
今の状況を整理する
ビジョンと現状の差分を洗い出す
差分から課題を特定し、課題に対してプロジェクト化する
各プロジェクトのミッションも言語化する
細かくタスクを立て、スケジュールを引く
実際に見直しを行った弊社のミッションに関しては以下の記事にて紹介しています。
2.職務定義の言語化
次に職務定義の言語化です。言葉の捉え方は人それぞれの価値観に依存します。例えば、「デザイナー」という職務に関しても、「絵を描く人」と捉える方もいれば、「課題解決する道筋を設計できる人」と捉える方もいます。
弊社の場合、デザイナーさんの職務を後者で再定義しました。が、これを言語化せずに共通認識をチームで持てていないと、デザイナーとして、課題の特定に意識がいかなかったり、支援先の業界自体をリサーチするという作業が抜け落ちてしまいます。そうなればチーム間のコミュニケーションもちぐはぐになり、今後新しく入社される方も苦労することになります。
「各職務に課せられたミッションは何なのか?」「どんな価値を提供する人なのか?」これも会社の理念やビジョンに沿って言語化しておくことが大切です。
3.評価制度見直し
ビジョン、価値観、職務定義が明らかになることによって、「なんとなく仕事ができるから」という曖昧な評価ではなく、自社がどんな人材(どんな頑張り)を評価するのかも言語化、数値化することができます。
評価制度は一見堅苦しく感じますが、評価されるポイントが目的に沿った内容でかつ極端に共感できないものでなければ、スタッフさん的にもむしろやるべきことの解像度も高くなり、徐々に主体性が増していきます。
何をどう頑張れば価値ある存在になれるのかが曖昧なほど苦しいものはありません。これは、「あの人はお気に入りだから評価されている…」という考え方を会社の中から排除していくためでもあります。(個人的にはお気に入り制度が最も嫌いな制度…)
また、評価制度は、今後採用していきたい人材を明確にするツールとしても役立ちます。どんな評価の仕組みになっているのか確認しておきたいという応募者の方も多くいます。「評価の基準は上司のさじ加減で〜」というのが応募者の方にとって最も恐れられるので注意です。
4.自社の特徴、ニーズ分析
これまでの過程でおおよそ、「〇〇な人材に対して、自社は××という価値を提供することできる。」という内容が整理できていますが、ここではより具体的に、 「自社が応募者に対して提供する価値」と「応募者の方のニーズ」がどうマッチするのかを整理していきます。
自社が提供できる価値に関しては、「働きがい」と「働きやすさ」は別物なので、あえてここでは分けて考え、その上で応募者の方のニーズとマッチするポイントを特定します。
ニーズ分析の際は、今実際に働いているスタッフの方に、直接ヒアリングしてみると意外と見落としていた職場環境の良さだったり、逆に「ここを改善すればより自社で働くことの意味が大きくなる」というポイントも見えてきます。このフェーズで明らかになった特にフォーカスするべき、自社の強みと応募者ニーズを元に戦略を構築していきます。
5.サイコグラフィック/ターゲティング
集客活動ではよくターゲティングを行いますが、採用活動にいたっては案外ターゲットが設定されていないことがあります。4で特定したマッチングポイントを起点に、ターゲットを明らかにしていきます。
特に重要なのが、市場をセグメントする際に性別・年齢・職業などのデモグラフィックのみならず、趣味・嗜好・行動特性・態度といったところまで切り分ける「サイコグラフィック」まで整理しておくこと。
サイコグラフィックの切り口でもターゲティングを行うことで、より具体的な人物像が浮かび上がってきます。
例えば、「仕事の価値観」で切り分けてみると、プライベートとの両立や自由な環境でゆったりと仕事をしたいという方は、「リモートワークOK」など、働く環境を重視したいと思うでしょう。
一方で、チームメンバーと近い距離で意見を交わしながらでモノづくりし、チームでの達成感を味わいたいという方は、現場のコミュニケーションを重視するかと思います。(あくまで仮説ですが)
どのような人材に焦点を当てるかは、会社の方向性や事業内容にもよりますが、セグメンテーション/ターゲティングの段階でこういった趣味・嗜好・行動特性・態度等も考慮しターゲティングおくと、後のPDCAも回しやすくなります。ただ、もちろんターゲティングも”仮説”なので身の回りの様々な人にヒアリングを繰り返していくことはマストです。
また、これはちょっとした小技ですが、サイコグラフィックを活用したターゲティングは、募集要項に記載する内容や項目にも反映することで、よりマッチした人材からの応募が期待できます。
6.採用コンセプト・メッセージ開発(事例あり)
これまでの内容を踏まえ、自社で働くことの”意味”をメッセージ化していきます。
下記は言葉をまとめる際に最低限のチェックしておきたい項目です。
応募者から求められている内容か?(応募者インサイトを突いているか?)
事実として提供できる価値か(背伸びしてできないことをメッセージ化していないか?)
意志(ビジョン)に沿っているか
誰が聞いても分かりやすいか?入社後の自分を想像できるか?
このメッセージ次第で、その後のデザインや共感いただける層も変わってくるので、言葉が明確になった段階で改めてアンケートなどをとってみることをおすすめしたいです。
また、コンセプトにはさまざまな考え方があると思いますが、個人的には戦略のないコンセプトはコンセプトではないと思っています。価値観をそのまま言葉にしていたり、テーマ(お題)をそのままコンセプトにしているケースが多くのところで見られます。それでは当然成果も出ません。
弊社の例になりますが、アプリコットデザインの採用コンセプトは、「自分を生きる"きっかけ"を掴もう」です。このコンセプトには以下のような意図が込められています。
ここで言いたいのは、「自分が理想とする姿に近づくための挑戦の場としてアプリコットデザインを大いに活用してください。"踏み台にしてください"。それだけ選択がある環境を整えています。」です。
このコンセプトの中に、弊社の採用市場における立ち位置(ポジショニング)も明確に示しています。
7.リクルートサイト制作(ベースとなる受け皿を作り込む)
弊社で採用を強化した際、特に大活躍だったのが、リクルートサイトです。
応募者の方が自社の存在を知るきっかけは様々ですが、認知した後には必ず自社サイトを見にこられます。
サービスサイトやコーポレートサイトなど、事業内容に関わるサイトは多くの企業さんも作られていますが、リクルートサイトに力を入れている企業さんはまだまだ少ない状況。
ただ、無理にリクルートサイトを独立させなくても問題はありません。
コーポレートサイトにくっつける形でそれ専用のページを複数用意して、コンテンツを充実させておくだけでも十分成果が見込めるはずです。
リクルートサイトに載せておきたい最低限のコンテンツは下記です。
企業のビジョンとミッション
企業文化(どんな社風なのかを様々な切り口で発信。日々のブログやスタッフ紹介など)
福利厚生や働く環境
成長機会とキャリアパス
代表の方自身の理念が伝わるメッセージ
社員の声
また、デザインやコンテンツの中身には他者との違いがわかりやすいよう独自性を意識することも重要です。独自性を視覚情報に落とし込むことによって応募者の方に対して認知されやすく、「〇〇を重視するならこっちだ!」といったイメージで明確な意図を持って入社いただけます。これにより入社後のミスマッチを防ぐことにも繋がります。
▼参考例:アプリコットデザインリクルートサイト
https://apricot-recruit.com/
8.その他に行った施策
リクルートサイト公開後主に行なった取り組みは下記の内容です。
定期的な発信と露出量向上
スタッフストーリー/スタッフ座談会(インタビュー記事)
導線整理
日々、言葉や導線のチューニング
継続的な文化の発信
一つずつ解説していきます。
定期的な発信と露出量向上
弊社では創業当初からブログでの情報発信に力を入れてきました。そのため、スタッフ一人一人からの情報が定期的にアップされます。応募者の方にとっては会社全体からの情報はもちろん欲しいところですが、そこで働くスタッフの日常、そこからわかる考え方や人となりも気になるところです。
実際に入社いただいた方々からお話を聞くと、「スタッフブログは定期的に見に来ていた」という声が多くありました。
「どんな人たちがいるかわからない会社」よりも「どんな人たちがいるかわかる会社」の方がやっぱり魅力的に感じますし、事前にどんな人たちがいるのか把握していただくことは、入社後のギャップを埋めることにも繋がります。ちなみにここ最近はより情報発信を強化しており、これまで運用してきたブログやインスタだけでなく、X(旧Twitter)やポットキャストにも力を入れています。
▼運用中のポットキャスト
https://apricot-design.com/voice/
▼萩原個人Xアカウント
https://twitter.com/hagimaru31
スタッフストーリー/スタッフ座談会(インタビュー記事)
少し前から始めた取り組みですが、広報担当者によるスタッフインタビューも始めました。スタッフの価値観や今後目指していきたい姿など、一人ひとりのパーソナリティに深く迫った内容です。
▼スタッフストーリー
https://apricot-design.com/staffblog_cat/recruit/
この記事の狙いは一つ前に書かせていただいたブログ記事と同様の狙いがありますが、応募や入社の前から、より濃い関係性を築いておきたいという意図があります。
情報発信は、一方通行では少々物足りなくて、やっぱりあくまでもユーザーの方とのコミュニケーション。
ブログの特性上、コメント機能などは付いていませんが、「上部ではない一人ひとりの本音」を伝えるだけでも対話ほどではないかもしれませんが、コミュニケーションとして成立すると思っています。
そんな本音が読者の方にどこか一部分でも共感いただいたならば、それだけでも十分発信する意味はあると感じています。
導線整理
ユーザーの方が、どこで情報を仕入れていて、次にどんな行動をとって、応募までいくのか?この点の設計は意外と見落としがちですが、集客においても採用においても間違いなく重要だと感じています。
話の流れ、ストーリーを描くように、ユーザーの方の感情を紐解きながら次の行動を起こしやすいよう導線を敷いていきます。(デザインとは気遣いです。)
導線が途切れてしまったり、情報が乱雑で取得しづらかったりすると、離脱されてしまう可能性が高くのなるので要注意です。
また、一つのコンテンツを生み出した際(ブログ記事など)、一つの場所のみにアップさせておくのは非常にもったいない。そのため、たとえば採用向けのコンテンツが一つ出来上がったら、自社サイトのブログにアップし、同様の記事をSNS等に転載すること検討してみていただきたい。
ただ媒体によってはGoogleさんから重複コンテンツと見なされ、SEOの評価が下がってしまうケースもあるため、noindexの設定は必須です。あとはX(旧Twitter)などで告知するのもありだと思います。
兎にも角にも、どのようなコンテンツが上がったら、どの場所にどのタイミングでコンテンツを公開するのかを一つの地図を作るようなイメージで事前に設計しておくと後の運用が楽になりますし、情報の流れもスムーズになります。
日々、言葉や導線のチューニング
これまで書かせていただいた通り、新しいコンテンツを生み出し続けることは非常に重要です。ただ、新しいコンテンツを発信してそれが当たるというのは稀です。そのため日々、今あるコンテンツの分析改善はマスト。
少し導線を変えただけで、少し言葉を変えただけで成果に繋がることはよくあるので、日々見直し、仮説を立てながらチューニングしていくようにしています。
WEBサイトにあるコンテンツに関しては、グーグルアナリティクス(GA4)などの解析ツールを活用してPDCAを繰り返し行なっていきましょう!
継続的な文化の発信
もう最後の最後はこれにつきます。個人的に思っていることですが、企業文化を感じていただくにあたって、文字情報のみで上手に伝えていくのはなかなか難しいと思っています。
文化という情緒的価値は、現場からのリアルな声、ものづくりの現場の様子、実際にできたサービスや商品、世の中に何かを訴えかけるようなアクションなどから感じ取っていただくのが最もリアルだなと。
会社や会社の中にいるスタッフのリアルをそのまま発信するような、少し緩いコンテンツも時には有効的だと思います。
最後に
改めて自社の採用ブランディングをやってみての率直な感想ですが、今後の事業活動自体を見直すとても良いきっかけになりました。普段からクライアントさんと共にブランド作りに本気で取り組んでいますが、自社のことは少々蔑ろにしていたところがあったので、改めて見つめ直すことで様々な発見があり、個人的には「今のうちにやっておいてよかった」の一言に尽きます。
採用活動の目的は「自社にフィットする人とのマッチング」です。そして成功の鍵は、「リーダーがこういったプロジェクトの”意義”をどれだけ周囲に落とし込めるか。」だと思っています。(採用活動においては特に)
正直かなりハードな取り組みでしたが、心強く信頼できる仲間との出会いがあり、そのおかげもあって目標や目的に真っ直ぐになれたのが、何よりよかった点です。
かなり長い記事になりましたが少しでも参考になれば幸いです。