棲
「じゃあ、君の雑貨屋は辞めるってことですね」
そんなの続けたいに決まっているじゃないか。
でも、まずはちゃんと働きたいと思ったから、
御社を受けたのですよ。
あなたならって、そう思ったから。なのに。
❄︎ ❄︎ ❄︎
最近、気になっていた会社の2次面接を受けた。
「世界で作って世界で売る」なんて壮大な会社。
憧れのテキスタイルデザイナーになれるなら、
温かな衣服を、より多くの人に届けられるなら。
「おまもりのような衣服」で君を包みたい私は、
どうしても生活の根底に関わる仕事がしたくて。
全ての衣服の根幹である生地を作り出す仕事や、
私達の一番近くで心を支える下着メーカー、
たおやかな生活を、共に紡ぐ仕事がしたい。
だけど、就活を進めるたびに、立派な大人達に、
詰められる。
「働かず今のまま続ければ良いんじゃない?」
「ウチよりもテキスタイルの方が向いてるかも」
「ふーん、古着が好きなんだ。なるほどね」
抉るような質問をされる度に、胸がざわつく。
本当に好きなことや、やりたいことに蓋をして、
ちゃんと社会人にならないとって決心したのに、
そんなこと言われても、じゃあ、どうしろって?
今日まで信じて続けてきたこの小さな歩みは、
絶対に間違いなんかじゃないのに、たった一言で
揺らいだり、悲しい気持ちになる自分が、本当に嫌になる。
私は、ただ、柔らかな空気と穏やかな世界を、
衣服を通して、もっと伝えていきたいだけなの。
君のためのお守りを共に紡いで、大切な人達と、
大切な衣服達を、そっと守り抜きたいだけ。
君と共に、物語を紡ぎ続けたい。それだけなの。
あぁ、いつか誰かの心にキュンと刺さって、全部肯定される日が来ますように。
だって、私のやってきたことは間違いじゃない。
そうでしょ?
棲みやすい居場所を探すのは、本当に大変だ。
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